認知症

どうすればいい?認知症で同じ話を繰り返されるときの対応法

在宅で認知症の家族を介護されている方から『同じ質問を繰り返し尋ねられる』といった状況に困っている話をよく伺います。

尋ねてくる本人に悪気はなくても、数分おきに聞かれるとさすがに頭を抱えてしまいますよね。

認知症の方が同じ話を繰り返してしまう原因や心理状況とはどのようなものでしょうか。事例を用いて対応方法も紹介します。

【事例】認知症の方が同じ話を尋ねる原因とは?

Aさんの事例を紹介します。

Aさん:50代女性。夫、中学生の息子、義母との4人暮らし。半年前に義母の介護のため、事務パート職員を退職。介護は主にAさん一人が担っている。

義母:70代女性。10年前に夫が癌で亡くなり、以後は息子家族と同居。半年前にアルツハイマー型認知症を発症してから物忘れが増える。要介護2。普段は明るい性格だが、心配性な一面もあり。

「病院はいつ?」同居の義母から3分おきに尋ねられてイライラ……

『同居の義母が半年前にアルツハイマー型認知症と診断されました。それ以降の義母は、物忘れの症状が明らかに増えています。

「ねぇ、病院に行く日はいつ?」と3分置かずに同じ質問をされるので、最近は苛立ちが隠せません。

不安そうな義母の表情から、本人に悪気はないとわかっています。なるべく穏便に対応していますが、時々どうしても優しくなれず自己嫌悪に陥ります』

Aさんは在宅介護で常に義母と同じ屋根の下で暮らしているため、息をつく暇もないでしょう。このままではAさんは介護疲れによる体調不良を起こしかねません。

しかし対応が難しそうな認知症の行動でも、ポイントをおさえれば介護が楽になるケースがあるのです。

まず、Aさんの義母が同じ話を繰り返す要因は何かを確認してみましょう。

認知症による『中核症状』と『BPSD』が原因

中核症状

程度や進行の差はあるものの、どのタイプの認知症でも発生する症状を『中核症状』と呼びます。脳細胞が壊れ、その細胞の機能が失われたために生じる症状です。

アルツハイマー型認知症の多くは短期記憶を保存する海馬の萎縮から始まるとされ、早期からの記憶障害や見当識障害が特徴です。

  • 記憶障害(ものごと自体を覚えられない/すぐに忘れる)
  • 見当識障害(場所・日時の把握が難しくなる)

Aさんの義母の症状にも当てはまりますね。

BPSD(行動・心理症状)

中核症状などがきっかけで、行動または精神面に支障がでる症状を『BPSD(行動・心理症状)』と呼びます。本人の性格やライフスタイルなどにより症状・程度が異なります。

BPSDによる主な症状

  • 行動症状→徘徊・暴行・介護拒否・帰宅願望・失禁・ろう便など
  • 心理症状→不安・焦燥感・幻視・抑うつ・妄想など

Aさんの義母は心配性な一面も持ち合わせているようでした。元来の性格であった『不安感』の増幅が、同じ話を繰り返している要因のひとつとも考えられるでしょう。

本人の不安も介護者の苛立ちも当然の心理

ほとんどの認知症は現代の医療を用いても完治する方法はありません。

そのため脳細胞が壊れてしまう中核症状の改善は難しいものの、相手の気持ちに寄り添うことでBPSDの軽減は可能です。

ここではAさんの義母の『不安感』と、Aさんの精神状態に着目してみましょう。

本人の苦しい気持ちを理解する

普段の私達でも外出中に「家の鍵はかけたかな……?」と心配になる場合があります。なかなか帰宅できないと不安も長引き、早く確認したいですよね。

認知症が進行すると「直前に何をしていたのか覚えていない」「今が何時なのか、ここがどこなのかわからない」といった状態が日常的かつ継続的に発生します。認知症の方は常に大きな不安に襲われ、混乱しているといっても過言ではありません。

そのためAさんの義母が病院の日時を何度も聞く背景には、苦しい気持ちや不安を訴えたかったのではないでしょうか。誰かに確認して安心を得たかった可能性があります。

言葉の表面のみで意味を捉えず感情に焦点を当ててると、いつもと異なる捉え方ができるかもしれませんね。相手の気持ちと会話するように心がけてみましょう。

在宅介護では受け流す姿勢も大切

Aさんは義母に対して「優しくなれない」と悩んでいました。お互い人間なので、相手に対しての苛立ちは当然の感情だといえます。

何度も尋ねてくる認知症の方の対応として、一般的には『毎回初めて聞いたかのような反応を』『いつも丁寧に笑顔で』などが推奨されています。たしかに効果はありますが、毎日自宅で介護されているAさんにとって現実的な方法とは言いにくいですよね。

Aさんと義母は長い同居生活により、ある程度の信頼関係は保たれていると考えられます。その絆から、たまには義母の話を受け流しても構わないのではないでしょうか。

例えば数回に一度は「さっきも聞きましたよ~」「何度も確認してくれるので、私も覚えられました」など、そっと指摘してみましょう。介護者としても自分の意見を伝えられ、気持ちが少しスッキリすると思います。

『認知症の介護はこうするべき』といった対応も大切ですが、在宅介護においては介護者がなるべく疲れない方法がベストといえます。

同じ話を繰り返されるときの具体的な対応方法

会話のなかで意識的に時間を伝える心がけを

Aさんの義母のように認知症による見当識障害がみられると、日時の把握が曖昧で不安を抱えている可能性が大きいといえます。

安心してもらえる方法のひとつとして、普段から『時間』を取り入れた会話を意識しましょう。例えば食事なら「昼ごはんですよ」と、『いつなのか』の説明です。「朝の10時です」「今日は2月3日の節分ですね」「6月なので梅雨に入りそうですね」など。

その時間を覚えてもらわなくても構いません。曖昧な時間感覚を一時的にでも取り戻してもらえることにサポートの意義があります。少しでも現在の時間軸に合わせて生活できれば、本人の不安も和らぐでしょう。

カレンダーや時計を活用する

日時の不安を抱いている認知症の方に対して、カレンダーや時計を工夫して見えやすい位置に設置すると落ち着く場合があります。一高齢者が目に留まりやすい『日めくりカレンダー』や『大きめ数字のデジタル時計』が適しているでしょう。

ただし過去の習慣や認知症の状態によって効果は左右します。本人が興味のある写真のカレンダーを使用するなど、今までの生活習慣を考慮し馴染みのあるものを選びましょう。

人の力を借りる

Aさんのように認知症を抱えた義母の介護は、時間経過とともに介護疲れが深刻となる懸念があります。

無理のない介護の継続のためには社会資源の積極的な活用が重要です。デイサービスやショートステイなどの公的介護サービス以外にも、介護保険外サービスや自治体独自のサービスが数多く存在します。担当ケアマネージャーに一度相談してみましょう。

家族や親族による介護に対する支援も重要です。親族に直接的な介護は難しくても、経済的支援ならば応じてくれるかもしれません。他にも介護の孤立を避けるために『認知症カフェ』『家族介護の会』など、同じ悩みを抱える集い場への参加も好ましいですね。

在宅介護による孤独を避け、多岐にわたる支援や介護者の休息が、介護疲れをもたらさないコツだといえます。

まとめ

認知症の症状は千差万別で、昨日は問題がなかった対応も今日は効果がイマイチといった状況も大いに発生します。

アルツハイマー型認知症ではAさんの義母のような『何度も同じ話を繰り返す』症状が多く見受けられますが、ライフスタイルや性格、環境などでそれぞれ対応策が異なるのです。認知症介護は画一的な方法がない部分が難しいですよね。

在宅介護は他者や世間との接点が少なくなりがちです。悩みは一人で抱え込まず、ケアマネージャーなど身近な専門家への相談が、解決への近道だといえるでしょう。

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