介護の現場ではQOL(クオリティオブライフ)という単語をよく使います。
耳慣れない言葉かもしれませんが、介護だけではなく医療や教育の場でも注目されている言葉です。
介護に携わる者だけではなく、自分自身の老後を考えるとき、QOLは非常に重要なポイントになると言われています。
この記事ではQOLのそもそもの意味や、介護現場におけるQOLの考え方についてご紹介します。
1・QOL(Quality of Life)の意味
QOL(クオリティオブライフ)とはどのような意味をもつのでしょうか?
その定義や具体的な事例などを1つ1つ見ていきましょう。
QOLの定義
QOLとは、日本語ではと解釈されています。
1947年に国際保健機関(WHO)は健康憲章の中で
健康とは単に疾病がないということではなく、完全に身体的・心理的および社会的に満足のいく状態にあること。
健康長寿社会の実現に向けて~健康・予防元年~|厚生労働省
と定義しています。
これは生活の質・人生の質として健康は欠かせないという意味になりますが、「身体的・心理的・社会的に満足のいく状態にある」の部分がQOLそのものを表しているといえるでしょう。
生活の質を具体的にいうと?
「QOL」「生活の質」といわれてもどんなことなのかわからない…という方は少なくないはずです。
実際にはどのようなポイントをチェックしているのか、具体的な例をご紹介します。
身体的な面 | 満足な活動が行われているか・痛みや不快感に悩まされていないか・適切な医療を受けられているか |
精神的な面 | 経済的困窮はないか・ストレスを過度に感じていないか・必要な存在だと感じることができているか |
社会的な面 | 周囲の人間関係が良好か・社会貢献の気持ちを持てているか・コミュニケーションを取れているか |
それぞれ置かれている状況は異なりますが、3つの観点からどの程度生活の質が保たれているか、ということがポイントになります。
QOLが低下するとどうなるのか
介護におけるQOLの低下とは、第一に身体機能の低下が挙げられるでしょう。
麻痺や可動域、既往症などを考慮しなければ、痛みなどでストレスが生まれます。
痛みやストレスは社会活動や日常生活の妨げにもなり、生活の質は一気に低下することになります。
次に考えられるのは周囲とのコミュニケーションの減少です。
「病気だから」「一緒に住んでいないから」「言ってもわからないかもしれないから」と周囲が思い込み、適切なコミュニケーションをとらなければ、精神的にも社会的にも質が低下することになります。
介護におけるQOLとは、ADL(基本的日常生活動作)の低下にもつながる重要な要素といえるのです。
2・QOLを上げるために必要なことは?
QOLは介護者にとってもご本人にとっても、生活を考える上で重要なポイントになります。
QOLの低下はさまざまな弊害を生むことが分かっていますので、QOLを低下させないための対策が必要です。
いったいどんな対策が有効なのでしょうか?
コミュニケーション
周囲とのコミュニケーションを保つことは、QOL向上に欠かせないポイントです。
- 自分の意見を言う
- 他人の意見を聞く
- 1つの題目に意見を交わす
など、通常は当たり前のことでも、介護を受けている方には重要な行動なのです。
また「こうしてほしい」と自分の希望を伝えて、それを叶えてもらうことも大切になります。
自分の意見も言えない、人と意見を交わすこともない、希望を伝えることもできない…そんな生活では、「質」を追い求めることなどできません。
円滑で豊かなコミュニケーションは、確実にQOLを向上させるのです。
社会とのつながり
社会とのつながりもQOLの向上には欠かせない要素の1つです。
社会からの孤立は孤独感を深め、厭世観を強めてしまうことにもなりかねません。
地域・近隣の方とのコミュニケーションや、社会貢献活動などは非常に重要です。
ご本人の体調やADLに差し支えない範囲で、できる限り社会とのつながりを持ちましょう。
地域ネットワークの活用などもおすすめです。
『必要とされる存在』という意識
誰かから必要とされることは、生きがいや気持ちの張りにつながります。
家庭内であったとしても役割を持ってもらい、『自分は必要な存在なんだ』という意識を持てる環境づくりに取り組みましょう。
筆者が訪問介護を行っていたご家庭では、ご利用者の方が日めくりカレンダーの管理と洗濯物をたたむことを「任務」とおっしゃっていました。
「私がやらないと誰もやらないのよ」「孫が『おばあちゃんの役目』って言うの」と嬉しそうに話されていました。
些細なことでも他人から必要とされているんだと感じることができれば、満足感・充実感・達成感を得ることができます。
満足感・充実感・達成感の積み重ねが、人生を豊かにし、QOLの向上につながるのです。
3・「やってあげる」介護から「できるようにする」介護へ
介護の現場ではQOLという言葉を頻繁に使いますが、それは実際にどのような取り組みなのでしょうか?
またどんなことに注意してケアを行うべきなのでしょうか?
ADLとQOL
QOLと密接な関係にあるのがADL(基本的日常生活動作)です。
介護ではADLの自立が目的とされていた時代もありましたが、近年ではQOLの向上にシフトチェンジされています。
ADLの自立を重視してしまうと、目的としていたQOLの部分が充足されないことも考えられます。
反対にADLの自立度が低くても、生活が充足し、ご本人が満足しているのであれば、QOLは向上しているといえるでしょう。
もっとも重要なことは意志の尊重です。
ADLとQOLを分割して考えるのではなく、可能な限り並行して実現できるように取り組むことがポイントなのです。
現場の取り組み方
現場の取り組み方として重要なのは、『できないからやってあげる』のではなく、『できるようにする』介護を行うことです。
- 自分がやった方が早いから
- 見守る時間がないから
など、介護の現場は過酷であることがほとんどですが、できることをサポートするという意識改革をしなくてはいけません。
ご本人が何を『幸せ』と考えるのか、どんな価値観を持っているのかなど、寄り添って話を聞くことで、必要なケアが見えてきます。
やってあげる介護からできるようにする介護へ、現場もシフトチェンジしなくてはいけないのです。
4・まとめ
QOLは医療・看護の現場でも注目されています。
しかし介護の現場では、医療・看護とは違った視点でQOLの低下を防ぎ、向上に努めることができるのです。
ご本人の立場に立って考え、傾聴し、どんなことがQOLの向上につながるのかを一生懸命考えケアを行う…これこそが介護の現場における使命ではないでしょうか。
その人らしい豊かな老後を送るために、QOLの向上は欠かせないポイントになるのです。