介護保険施設の入所やショートステイといったサービスは、利用料が心配ですよね。
とくに本人の所得が低いと、経済的負担が否めません。
そこで活用したいのが『介護保険負担限度額認定制度』。
低所得の人が一定の要件を満たせば、食費・居住費の負担が軽くなる公的制度です。
しかし令和3年8月1日の制度改正によって、費用の負担額が見直されました。
今回は改正された内容とともに、介護保険負担限度額認定制度の仕組みや申請方法、注意点をお伝えします。
1.介護保険負担限度額認定制度の概要
介護保険によって介護保険施設で受けるサービスは1~3割の負担で利用できますが、滞在時の食費や居住費、サービス費、日用品費は、原則として全額自己負担です。
そのため「収入が低いから介護サービスを受けられない……」といった事態も考えられますよね。
しかし介護保険には、低所得者に対するさまざま制度が用意されており、その中のひとつが介護保険負担限度額制度です。
低所得者として一定の要件を満たせば介護保険施設を利用する際の食費と居住費が軽減されます。
低所得者にとっては強い味方となりますね。
ただし令和3年8月1日から、在宅サービスを利用している人との公平性等の観点が重視されたため、制度が改正されました。
認定の基準や食費の負担額が見直され、経済的負担が大きく変化する人も増えると考えられます。
負担軽減の対象となる施設サービス
介護保険負担限度額制度で、食費・滞在費の負担が軽減される施設サービスは下記の通りです。
【施設サービス】
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
【ショートステイ】
- (介護予防)短期入所生活介護
- (介護予防)短期入所療養介護
【ほか】
- 地域密着型介護老人福祉施設(地域密着型特養)
※グループホームと有料老人ホームは対象外なので、制度を利用する際には注意しましょう。
2.介護保険負担限度額認定制度を受けるには?(令和3年8月改定後)
介護保険負担限度額制度は、世帯の所得や預貯金によって第1~第4段階に分けられます。
これを『利用者負担段階』といい、段階別に食費・居住費が負担される限度額を『負担限度額』といいます。
令和3年8月から改正された内容をもとに、認定要件や具体的な軽減額を詳しく見てみましょう。
認定されるための要件は2つ
【その1】所得の要件
世帯全員の住民税非課税が要件のひとつです。
世帯を分離している配偶者や内縁関係者であっても世帯のひとりとして含まれまるので、注意してくださいね。
【その2】預貯金等の要件
もうひとつの要件が、本人または夫婦の預貯金等が一定額以下であることです。
預貯金等とは『資産性があり、換金性が高く、価格の評価が容易なもの』を対象とし、借入金や住宅ローンなどの負債があれば預貯金等から差し引かれます。
申請時に借用書やローンに関しての書類提出が求められるので、後述する申請方法に沿って準備しておきましょう。
利用者負担段階で異なる負担限度額
令和3年8月の制度改正では、食費の負担限度額が見直されました。
段階によって1日当たり350円から710円の負担増となり、今まで制度を利用していた施設入所者は1ヵ月で最大2万円ほどの出費が増えます。
3.介護保険負担限度額認定制度の申請方法
介護保険負担限度額認定を受けるには住んでいる市区町村へ申請し、認定が必要との判断で認定証が発行されます。
書類関係は市町村のホームページからダウンロードできる自治体が多いので、チェックしてみてくださいね。
ダウンロードが難しい場合は直接受け取りや郵送でも可能です。
お住まいの自治体に問い合わせましょう。
提出時に用意するもの
- 各市町村所定の介護保険負担限度額認定申請書・同意書
- 介護保険被保険者証
- マイナンバー確認書類
- 預貯金等の残高が記帳されている通帳の写し
預貯金等の具体的な項目は、以下の通りです。
【預貯金(普通・定期預金)】
- 金融機関名・支店名・名義・口座番号のわかるページの写し
- 直近2ヵ月に記帳した明細ページの写し
- 定期預金ページの写し(金額がゼロでも写しを提出)
- インターネットバンクであれば口座残高ページの写し
【有価証券(株式・国債・地方債・社債など)】
- 証券会社や銀行の口座残高の写し(ウェブサイトの写しも可)
【金、銀(積み立て購入を含む)といった、時価評価額が把握できる貴金属】
- 購入先の口座残高の写し(ウェブサイトの写しも可)
【投資信託】
- 銀行、信託銀行、証券会社等の口座残高の写し(ウェブサイトの写しも可)
【たんす預金や現金など】
- 自己申告
ただし、下記のモノは預貯金等に含まれません。
【預貯金等に含まれないもの】
生命保険、自動車、絵画、骨董品、宝石といった時価評価額の把握が難しい貴金属など
申請の手順
- 申請書・同意書・提出に必要な書類を用意
- 預貯金等が把握できるものを用意
- 必要事項を記入、写しをとる
- 各市区町村の介護保険課などに提出
各市区町村で認定までの日数が異なりますが、提出書類に不備がなければ1週間程度で結果がでます。
ただし、急ぎの場合はお住まいの自治体に直接問い合わせてくださいね。
本人の申請が難しい場合は、成年後見人や地域包括支援センター、省令で定められた指定居宅介護支援事業者、介護保険施設などに申請を代行してもらえます。
申請代行の際には委任状も用意しましょう。
4.介護保険負担限度額認定制度に申請する注意点
審査対象期間や更新日に気をつける
負担限度額認定のための審査対象となる期間は、前年度の収入および所得です。
たとえば令和3年度(有効期限が令和3年8月1日~令和4年7月31日まで)の負担限度額認定は、令和2年(令和2年1~12月)の収入及び所得をもとにした審査となります。
また、介護保険負担限度額認定証は毎年の更新が欠かせません。
有効期限は『申請した日の属する月の初日~翌年7月末』なので、忘れずに更新手続きをおこないましょう。
正しく申告する
虚偽の申請、非課税年金(遺族年金・障害年金)の支給額を故意に申告しないなど、介護保険負担限度額認定を不正に受けた場合は、加算金を支払わなければなりません。
加算金とは 『これまでの負担限度額の2倍を加算金として納める』と介護保険法で定められているので、最大で総額3倍の支払いを命じられる場合があります。
申請および、資産の申告は正しく実施しましょう。
また、資産や収入の変化があると、利用者負担段階も変わります。
不正とみなされないよう、金銭関係でわからない内容があれば、担当ケアマネジャーや市区町村担当課に相談してくださいね。
5.特例軽減措置について
特例軽減措置とは、低所得者世帯のひとりが介護保険施設を利用して食費や居住費を支払っても、両方またはもうひとりが生活困難に陥らないようにする制度です。
認定基準に該当しない課税世帯の人であっても、次の要件のすべてを満たせば 『利用者負担第3段階(2)』として介護保険負担限度額認定を受けられますよ。
- 世帯人数が2人以上
- 世帯の年収から施設の利用者負担(※1)の年間の見込額を除いた金額が、80万円以下
- 世帯の現金・預貯金等の合計額が450万円以下
- 介護保険施設に入所(※2)し、第4段階の食費・居住費を支払っている
- 住んでいる家屋など日常生活に必要な資産以外に利用できる資産がない
- 介護保険料を滞納していない
(※1)介護サービスの利用者負担金額、食費、居住費、日用品費など
(※2)ショートステイは適用されない
まとめ
低所得者の人は介護負担限度額認定を受けることで、介護保険施設を利用する際に必要な食費や居住費の負担が軽減されます。
令和3年8月から制度改正されたとはいえ、段階的に自己負担額が軽減されるシステムは頼もしい制度といえるのではないでしょうか。
介護保険施設への入所を予定している場合やショートステイ利用時には、まずは担当ケアマネジャーに相談してみてくださいね。