事例集

【事例集】高齢者の一人暮らしが抱える現状と問題点

高齢者を取り巻く問題は多岐にわたりますが、独居=一人暮らしの高齢者が抱える問題は対応を急がねばならない状況にあります。

2019年に厚生労働省が実施した国民生活基礎調査によると、65歳以上の単独世帯は全体の28.8%にのぼり、10年前の約2倍の増加を見せています。

介護・福祉の面でも、高齢者の一人暮らしには十分な注意と支援が必要とされていますが、連携不足を感じることが多々あるのが現状です。

この記事では、筆者が実際に1人暮らしの高齢者の方とかかわった中で、心に残っているケースを3つご紹介します。

要支援2・Aさんのケース

【Aさんのプロフィール】

  • 74歳・女性
  • 要支援2
  • 婚姻歴なし
  • 既往症:パーキンソン病・高血圧・がん(甲状腺がん・乳がん・子宮がん)

他人とかかわることが嫌い!親戚とも疎遠

Aさんは私が勤務していた訪問介護事業所の古参の利用者でした。

ただし担当ヘルパーもケアマネジャーも幾度となく変更されていて、かなり難しい方という認識だけをもっていました。

実際にAさんを担当することになった際、変更後のヘルパーさんと一緒にご挨拶に伺ったのが初対面でした。

Aさんの第一印象は、とにかく不愛想。

話す言葉もキツく、「よろしくお願いします」といっても「こっちは何にも頼んじゃいない」と取り付く島もない感じでした。

ケアマネジャーからの情報では、家族(親・兄弟)は既に他界し、姪と甥はいるもののほぼ絶縁状態。

他人とかかわることが嫌いで、役所の担当者やケアマネジャーにさえ最低限の話しかしないということでした。

この調子ではなかなか周囲の人とかかわるのは難しいだろうと感じる利用者さんでした。

具合が悪くても病院へ行かない理由

Aさんの介護を担当して1ヶ月ほど経ったとき、担当しているヘルパーさんから連絡が入りました。

「Aさんが具合が悪そうなのに病院に行っていない。ちょっと様子を見に行って欲しい。」とのこと。

Aさんには持病があり、定期的に通院する必要がありましたので、急いでAさん宅に向かいました。

確かにいつもより具合の悪そうな様子だったので、「病院に行きましょう」と声をかけると「行けない」と言うのです。

Aさんは要支援2の介護認定を受け、介護サービスに月に8,000円程度の自己負担が発生していました。

「私はお金がない。年金も本当に少しだし、我慢すれば大丈夫」と頑なに病院に行くのを拒むのです。

ケアマネジャーに相談すると、数か月に1度、こういった訴えがあり、生活保護の申請についても話をしているが、Aさんに受け入れてもらえないとのことでした。

何かあっては困るからと何度も話をしたのですが、結局Aさんは「寝ていれば治る」と動くことはありませんでした。

介護保険サービスだけでは足りない現状

Aさんを担当していた中で感じたことは、Aさんには通常の介護保険サービスだけでは足りないということです。

性格的に気難しい面はあるにしても、精神的な面など、もっとAさんに合ったケアが必要でした。

Aさんの代わりに話を聞いてくれる身内とも疎遠で、進言できるのはケアマネジャーだけ。

しかしケアマネジャーの進言さえも聞かず、関わっているヘルパーには嫌われてしまうため、さらに孤立感を深めてしまう結果になっていたのです。

人嫌いの性格から施設への入所などまっぴらというのがAさんの信条でしたので、訪問介護でできるケアでは限界がありました。

Aさんのような既往症のある高齢者の方の一人暮らしは非常にリスクも高く、これからさらに年齢を重ねていくことを考えると、精神的なケアを併行して行わなければいけないというのが課題でした。

要介護1・Bさんのケース

【Bさんのプロフィール】

  • 79歳・男性
  • 要介護1
  • 妻とは50代で離婚・子どもなし
  • 既往症:脳梗塞(50代に発症・手術歴あり)による左半身麻痺と言語障害

生活保護を受けながらの老後

Bさんは大工さんをされていた79歳の男性です。

とても穏やかな性格で、訪問のたびに「ありがとう、ありがとう」と感謝の気持ちを表してくれる方でした。

50代で発症した脳梗塞の後遺症で、左半身の麻痺が軽く残っており、言語障害もあることから、働きたくても働けず、生活保護を受給していました。

奥様とは50代で離婚をされていて、お子さんもいらっしゃらず、訪問してくるヘルパーと話すのが唯一の楽しみだとおっしゃっていました。

Bさんは役所・病院・銀行・スーパーなどが近いアパートに居住していたので、麻痺は残りつつもご自身で日常生活は何とか送ることができていました。

お金がない?

Bさんの異変に気付いたのは、入浴介助で訪問していたヘルパーでした。

「Bさんが今月は生活保護費が入っていないって言ってます」

そんなはずはないだろうとケアマネジャーに話をしたところ、役所の担当者は確実に指定の銀行口座に振り込まれているはずだという回答をしたとのことでした。

ケアマネジャーと2人でBさんの家に行くと、確かにBさんは「お金が入っていない」と言うのです。

しかしきちんと確認を取ったら、振り込まれた日にBさん自身がお金を引き出していたこと・いつも使っているお財布の中には3,000円程度しかお金が残っていなかったこと・冷蔵庫の中にいつもは入っていない魚・肉・お酒・牛乳(Bさんは牛乳アレルギーがあった)・パンなどの食料品や、洗剤・サランラップ・シャンプーなどの日用品まで山のように入っていたのです。

左半身が不自由なBさんがそれらの大量の買い物を一人でしたことに疑問があったため、買い物をした店の人に聞くと、お客さんが来るからと言って買いにきたので、家まで一緒に運んだということもわかりました。

ケアマネジャーはすぐに認知症の検査を受けるよう手配をし、後日Bさんは認知症を発症していることが判明したのです。

垣根を超えた支援の必要性

Bさんのケースでは、早めにBさんの異変に気付けたこと・Bさん自身がSOSを発してくれたことで迅速な対応ができ、大ごとにならずに対処ができました。

Bさんの認知症の症状は初期的なものでしたが、気付かずに対応が遅れていたら…そう思うと、本当に反省点が多くありました。

訪問介護事業所だけではなく、地域住民の方・役所の担当者・ケアマネジャーなど垣根を超えた支援が必要だったのです。

ちょっとした情報共有ができるだけでも、一人暮らしの高齢者の方をリスクから守ることが可能なのだと感じたケースでした。

要介護認定を受けられないCさんのケース

【Cさんのプロフィール】

  • 62歳・女性
  • 要介護認定なし
  • 夫は他界・娘が2人
  • 既往症:脊椎側弯症(せきついそくわんしょう)・C型肝炎

こんなに具合が悪いのに…介護保険が使えない

Cさんは筆者と同じ介護事業所で働いていた同僚の母親でした。

同僚が介護の世界で働くことになったきっかけは母親(Cさん)だという話は聞いていました。

若いころに脊椎側弯症の手術を受けて金属を埋め込んだのに、年齢を重ねることによって別の側弯が生じていることが原因で、足や腰の痛みが出てきてしまっているという状況でした。

介護保険のサービスを受けたくて役所に相談に行ったところ、65歳未満だったことに加え、脊椎側弯症は特定疾病に該当しないため、介護保険は受けられない結果になったことで、筆者の同僚が介護をしていたのです。

Cさんは仰臥位(あおむけ)で寝ることができず、腰の痛みで歩けなくなってしまうことが多々ありました。

そこで職場の上司が福祉用具レンタルの会社と連携し、自費で介護用ベッドをレンタルしていました。

年金だけでは生活できない!医療費の問題

Cさんは旦那さんが他界してから、一人暮らしをしていました。

同僚は実家に通いながら介護を続けていたので、何度も同居をすすめたそうですが、Cさんは「迷惑かけたくない」と一人暮らしをやめなかったのです。

Cさんの旦那さんは自営業だったため、厚生年金がなく、遺族年金と繰り上げで受給したわずかな国民年金しか収入がありませんでした。

脊椎側弯症については以前の手術が原因で治療ができず、足や腰の痛みに対する対処療法しかできなかったため、定期的に整形外科を受診しなくてはいけませんでした。

同僚はできる限りの支援をしていたのですが、介護保険が受けられない状態で、Cさんが年金だけで生活するのはとても困難な状態でした。

後期高齢者にも該当しなかったため、医療費は通常の3割負担

誰のせいでもない病気で困っているのに受けられる公的支援はほとんどなかったのです。

本当に支援が必要な人が支援を受けられる制度へ

Cさんは年齢的にも既往症でも介護保険を受けられる対象ではありませんでした。

潤沢な資産もなく、子どもたちは精いっぱいの支援をしていても、QOLを重視した生活ができている状態ではなかったのです。

同僚を間近で見ていた筆者は、なぜ本当に支援が必要な人が支援を受けることができないのかというジレンマを感じずにはいられませんでした。

同僚が介護業界に関わっていた分、情報弱者にはならずに済んでいましたが、Cさんと同じように困っている高齢者の方はたくさんいるだろうと思ったのです。

子どもたちに迷惑をかけず一人で自立した生活を送りたいというCさんの信条は、決して間違っているものではありません。

介護保険サービスだけではなく、福祉や医療に対する支援の方法が、まだまだ充足していないと痛感した事例でした。

まとめ

高齢者の方が一人暮らしをしている事情は、本当にさまざまです。

一人ひとりの方が抱えている病気・家族の事情・経済的な面など、絶対に支援が必要なケースがあります。

高齢者の方がQOLを大切にして、その人らしく生きていくためには、介護だけではなく、福祉・医療など多方面からの支援が必要です。

超高齢社会が進む日本にとって、多くの問題を抱えた高齢者の一人暮らしは、早急に解決が必要な課題といえるでしょう。

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