コロナ禍における現在の日本では、身体だけではなく心のバランスを崩し、うつ病を発症する方が増えてきています。
新型コロナウイルスの拡大前、2017年に厚生労働省が実施した調査によると、うつ病が含まれる気分障害の患者数は、2014年には111.6万人だったのに対し、3年後の2017年には127.6万人にまで増加しています。
うつ病は高齢者の方にもみられる精神疾患です。
老人性うつ病と呼ばれる高齢者の方のうつ病について、症状や原因を解説します。
老人性うつ病とは?どんな症状がでる?
老人性うつ病と呼ばれる精神疾患には、どのような症状が現れ、どんな原因が考えられるのでしょうか。
基礎的な知識ともいえる定義や原因などをご紹介します。
老人性うつ病の定義
老人性うつ病というのは、正式な病名ではありません。
気分障害に含まれるうつ病を、65歳以上の方が発症した場合に、このような名称が用いられています。
そのため、高齢者だからというわけではなく、年齢の若い人も高齢者の方も、うつ病と同じような症状を発症しますので、適切な治療が必要な精神疾患です。
老人性うつ病の原因
老人性うつ病にはさまざまな原因があると言われています。
- 家族・知人・友人などの死
- 仕事の退職
- 引っ越しなどによる環境の変化
- ペットの死
- 加齢に伴う身体機能の低下
- 病気
特に身の回りに起きる不幸がきっかけで、うつ病を発症してしまうケースが多く、喪失感が大きすぎる場合は注意が必要です。
老人性うつ病の症状
基本的に老人性うつ病の症状は、年代を問わず罹る可能性のあるうつ病と同じです。
- 感情の起伏が激しくなる
- ストレスに敏感になる
- 意欲や思考力の低下が顕著になる
- 興味や喜ぶといった感情がなくなる
- 抑うつ気分が継続して起こる
- 頭痛・肩こり・不眠
- 食欲不振・吐き気
- 極度の疲労感
- めまい
老人性うつ病の特徴は、精神的な症状が見えにくく、身体的な症状が現れやすいということです。
治療法は他の患者さんと同じものですが、認知症と間違われてしまうことも多いため、より専門的な検査が必要になります。
老人性うつ病と認知症の違い
老人性うつ病は、年齢的にも症状的にも、認知症と間違われてしまうことが多いことが特徴です。
そこで老人性うつ病と認知症の違いについて、3つのポイントをご紹介します。
1・病気への自覚
認知症の患者さんは、自分の病気に無関心であることが多く、問題行動を起こしても自責の念にかられることはあまり見られません。
しかし老人性うつ病の患者さんは、できない自分に苛立ったり、症状の悪化に不安になったりと、病気への自覚が非常にハッキリとしています。
病気への自覚があるかないかによって、うつ病か認知症かの違いがわかります。
2・きっかけ
認知症は少しずつ症状が進行することが多く、これといったきっかけがわからない、ハッキリとした発症時期が不明ということがほとんどです。
これに対し老人性うつ病は、何かしら大きなダメージとなったきっかけがわかります。
同じような症状が出ていても、きっかけの有無で老人性うつ病・認知症のどちらかを見極めることができます。
3・記憶障害
認知症も老人性うつ病も、記憶障害の症状が現れることは同じですが、その症状に違いがあります。
認知症の方の記憶障害は、物事自体を忘れてしまうことが特徴です。
軽度の物忘れから始まり、症状は徐々に進行していく傾向があります。
それに対し老人性うつ病の方は、発症するきっかけとなった出来事が原因で、急に何かを覚えていないというケースが多く、自分自身でも忘れてしまったことに不安を抱いているのです。
老人性うつ病の方の場合は、忘れていることに対する不安を訴えることができますが、認知症の場合は忘れているという自覚がないことが大きな違いといえます。
老人性うつ病の治療法
うつ病と判断された場合は、主に薬物療法・精神療法・環境調整による治療が行われます。
老人性うつ病の場合、既往症や薬の副作用によって薬物療法が行いにくい傾向にあることが特徴です。
精神療法とは、病院で行われるカウンセリングなどがあります。
ご本人の不安を軽減するのにとても有効で、不安感や孤独感をわかってもらえることで症状の軽減につながることがあります。
環境調整とは、主に老人性うつ病の原因となる孤独感を和らげてあげることです。
安心・安全に暮らせるような住環境の整備や、話し相手がいるという環境を作ってあげることが大切です。
また、うつ病というと休養が必要という認識がありますが、反対に身体を動かすことで症状が改善されることもあります。
活動する機会を増やしてあげることで、孤独感も解消し、「何もできない」という不安感を和らげることもできます。
老人性うつ病・家族ができることは?
同居している家族が老人性うつ病になってしまった場合、家族の接し方や対応によって、病気の進行や症状の強さなどを抑えることも可能です。
どのようなことに注意して、どんな対応をするべきなのでしょうか?
1・受診をする
様子がおかしいと思ったら、まずはかかりつけ医に相談しましょう。
かかりつけ医がいない場合は、心療内科や精神科を受診することが大切です。
老人性うつ病は、認知症と間違われてしまいがちで、専門家の判断を仰ぐ必要があります。
治療法や対応も全く異なるため、できる限り早めに受診をさせてあげてください。
2・孤独にさせない
老人性うつ病を発症してしまった場合、ご本人は不安や罪悪感などさまざまな感情にさいなまれてしまいます。
中にはその気持ちを聞いてほしいと訴えてくることもあるでしょう。
そんなときはじっくりと話を聞いてあげることが大切です。
「気のせい」「頑張れ」は禁句です。
ご本人の言いたいことに「うん、うん」と同調・共感をしながら聞いてあげることで、不安感が薄れる効果があります。
ただし、症状の度合いや性格などによって対応が変わる可能性があるので、必ず主治医に相談をしてください。
まとめ
老人性うつ病とは正式名称ではありませんが、65歳以上の高齢者の方がうつ病に罹患した場合に、呼ばれることがある名称です。
しかし高齢者の方は年齢的に認知症と間違われてしまうことが多く、専門家の判断を必要とします。
うつ病は周囲にとっても本人にとっても辛い病気です。
もし家族に老人性うつ病の症状が現れたら、かかりつけ医や専門医療機関を受診し、うつ病か認知症かの診断をしてもらうことを心がけましょう。