生活習慣病といえば糖尿病を連想する人も多いでしょう。
糖尿病は悪化すると全身に症状が出現しますので、そうなる前に対応しなければなりません。
今回は、高齢者の糖尿病について詳しく解説していきます。
そもそも糖尿病とはなにか?
糖尿病は血糖値の上昇を抑える働きを持つホルモンであるインスリンの不足や作用低下によって、慢性的に高血糖が継続する病気です。
http://jspe.umin.jp/public/tounyou.html
糖尿病には二種類あり、1型と2型があります。
1型糖尿病は、自己免疫疾患などが原因によって、インスリンが分泌されない、あるいはインスリンが分泌が少ない病気でインスリンの自己注射が必要となります。
2型糖尿病は、遺伝的要因に加えて、食べすぎや運動不足といった生活習慣が加わって発症するのです。
糖尿病患者の多くは2型で、日本において糖尿病の可能性を拒否できない人は、成人の6人に1人、およそ1870万人といわれています。
糖尿病は自覚症状がないことから症状が進行しやすく、『網膜症』『腎症』『神経障害』の3大合併症(後述で解説)に加えて、動脈硬化の進行による心臓病や脳卒中のリスクも高めてしまいます。
糖尿病の診断は、空腹時血糖や『75g経口ブドウ糖負荷試験』などの血液検査によって行われます。治療は、血糖をコントロールすることを目的にし、『食事療法』『運動療法』『薬物療法』があります。
高齢者の糖尿病の症状について
高齢者糖尿病の症状について以下の2点の特徴があります。
①症状が進行している事に気づきにくい
加齢と伴に、物忘れや肩や膝の痛み、目のかすみや耳が遠くなるなどの症状が起こりえます。
そのような中で生活を送っていると、体に不調があっても「年のせいだろう・・・」と考えて、症状を放置してしまう傾向にあるのです。
よって、どんどん糖尿病の症状が進行してしまっているのにも関わらず、病院受診までに至らず、気が付いた時には悪化していることが多いのです。
②症状そのものが出現しにくい
血糖値を図れば数値として現れますので、糖尿病の具合がすぐに分かります。
しかし、日常的に血糖値を計測していなければ、冷や汗が出る、手足の震えがある、などの症状が出現しなくて、見逃してしまいがちになります。
結果として対応が遅れてしまい気付いた時には、状況が深刻である可能性が高いのです。
高齢者の糖尿病の原因について
加齢によって身体機能が低下する
人間の身体機能の多くは、20代から段々低下していくのが一般的です。
特に、65歳を超えると20代の比べると様々な身体機能が衰えてくるため、元気な若い頃に比べると、複数の合併症などが起こるリスクが増えていくのです。
その一方で、リスクに気が付く機能も低下するため、自覚症状がなかったにも関わらず、健康診断や人間ドックなどにより合併症に気が付くことが多くあります。
生活習慣改善の困難さ
『食事療法』『運動療法』『薬物療法』は糖尿病の治療の基本となっています。
特に、食事と運動は日頃の取り組みによって対応できるのですが、高齢者の場合だと長年の生活習慣を見直すことは難しいと感じる人が多いのです。
そのため、医師や保健師などの専門家から指導を受けても、自分の意思がかたまらず改善できないで、症状が進行してしまう可能性があるのです。
糖尿病の三大合併症について
https://www.diabetes.co.jp/dac/diabetes/complications
糖尿病性網膜症
日本では成人の失明の原因の第一位となっています。
眼の一番奥の眼底には網膜という神経の膜があり、そこに多くの毛細血管があります。
糖尿病の人の血液には、『糖』が多く、固まりやすい性質にあるため、網膜の毛細血管が詰まったり、血管の壁に負担がかかり、眼底出血が起こることもあるのです。
よって、血液の流れが悪くなり網膜に栄養素と酸素が足りなくなり、網膜症(失明)の原因になるのです。
糖尿病性腎症
腎臓の機能が低下してしまう症状です。では、腎臓にはどのような働きがあるでしょうか?
①老廃物や余分な水分をろ過して排泄する
②血圧をコントロールする
③ビタミンDを活性化させ骨を丈夫にする
④体内のイオンバランスや水分量を調整する
⑤赤血球をつくる
とても重要な臓器であることが分かると思います。
腎症になると、腎臓のろ過機能を担う糸球体を形作る毛細血管が痛み、腎機能が悪化するのです。
そして腎不全になり、透析をしなければならない状態になってしまいます。
糖尿病性神経障害
https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textlife/neuron.htm
そもそも『神経』とはなんでしょうか?
神経は脳とそれに連続する脊髄から全身に枝分かれして広がっているのです。
感覚神経は痛みなどを感じます。運動神経は筋肉を動かします。
そして、自律神経は血圧や体温を無意識にコントロールしているのです。
糖尿病性神経障害はこの三つの神経に障害が起きてしまう症状なのです。
具体的な症状として・・・
①手足などがしびれる(痛みが出る)
②足に冷感がある
③足が熱くなる
④手足の感覚が鈍いように感じる
⑤坐骨神経痛や肋間神経痛が起こる
このようなものがあります
糖尿病の治療について
これまで解説している通り、糖尿病は『食事療法』『運動療法』『薬物療法』があります。
食事療法について
糖尿病治療の基本となるものです。
食事療法の目的として、食べ物の摂取量や摂取方法に配慮して、インスリンを分泌する膵臓の負担を軽くすることがあります。
食事療法の3つのポイント
①高齢者本人にあった食事摂取量を守ること
認知症の高齢者の場合難しいこともあるでしょう。そのため家族の支援は必須です。
難しい場合は訪問看護や訪問介護などを利用して食事制限を行いましょう。
②バランスのよい食事摂取をすること
カロリーのみをコントロールすればいいわけではありません。
好きなものばかり食べるのではなく、魚や肉、野菜をバランスよく摂取するようにしましょう。
③決まった時間に食事をし、一日3食を食べること
食事を食べる時間が不規則にならないように、一日3食摂取するようにします。
高齢者の場合、自分で作るのが億劫になることもありますので、配食サービスなどを利用するのも一つの方法です。
運動療法について
食事療法と同じくらい重要な療法です。医師からも必ず実施するように言われるでしょう。
運動療法を行うことによって、ブドウ糖や脂肪酸の利用が促されて血糖値が下がります。
また、2型糖尿病の場合には、低下しているインスリンの働きが高まります。
その他にも次のような効果があります。
○高血圧や脂質異常症の改善が期待できる
○骨粗鬆症の予防にもなる
○末梢血管が強くなり、肺や心臓の働きが高まる
○体力と筋力が強くなる
○ストレス解消になる
運動療法は高齢者の場合、なかなか出来ないと思うかもしれませんが、激しい運動である必要はありません。
まずは散歩やウォーキングなどから開始してみましょう。要介護者の場合には、介護保険サービスを利用しながら運動をしてもいいでしょう。
薬物療法について
医療を利用する療法であり、医師の診断に基づいて行われます。
飲み薬を服用して血糖コントロールする方法と、インスリン注射を行い血糖をコントロールする方法があります。
治療が個々の高齢者の状態に合わせて安全で効果的に行えるように、医師が目標とする血糖コントロール値を設定されます。
そして、それに向かって家族や介護保険サービスの支援を受けながら取り組んでいきます。
糖尿病利用者に対する介護施設の対応
施設に入所すると、糖尿病の管理はしっかりしてくれます。
例えば、食事の管理(カロリー計算)、インシュリン注射、病院受診、薬の投与などです。
おやつも施設側が管理し、カロリーを多く摂取しないようにしてくれます。
但し、施設によっては例外もあります。90歳、100歳の高齢になって食べたいものがあるにも関わらず、食事制限をしたり、大好きなおやつが食べられなくて、自分の希望する最期を送ることができないでしょう。
そんな時は、糖尿病が悪化するリスクを踏まえて、施設と医師、本人(家族)で話し合い(カンファレンス)を行って、制限を緩めたりすることもあります。
特別養護老人ホームの場合、普段の様子観察は介護職員が行い、何か異常を感じた場合には看護師に連絡するという連携を行います。
看護師でも判断できない場合などは嘱託医師からの指示を受け、それにそって対応するようになります。