高齢者の運転する自動車事故のニュースが後を絶ちません。
運転免許の自主返納をすればいいという意見が多いですが、車が移動手段として欠かせない地域や身体的事情を抱えた高齢者がいることも看過できない現実です。
この記事では高齢の親世代に対し、運転免許の自主返納を伝えるにはどうしたら良いのか、自主返納をすることで得られるメリットや手続き方法などについてもあわせてご紹介します。
高齢者が運転免許を自主返納できない原因とは?
年齢的に運転が厳しくなっているにもかかわらず、運転免許の自主返納を行わない高齢者はどんな事情を抱えているのでしょうか?
内閣府が行った「運転免許証の自主返納制度等に関する世論調査」を元に、3つの主な理由をご紹介します。
公共交通機関の少ない地域に住んでいる
『運転免許証の自主返納制度等に関する世論調査』で明らかになったのは、交通手段として車を利用しているという実態でした。
『運転することの意味は?』という質問に対し、運転継続者の実に8割近い人が交通手段だと回答しているのです。
最寄りのバス停・駅までの所要時間が20分以上と回答した人のうち、約7割の人は毎日運転をしています。
公共交通機関が十分ではない地域に住んでいる高齢者にとっては、移動手段として自動車の利用が欠かせないのが現実なのです。
買い物・通院に必要
地方などの交通空白地域に住む人にとっては、買い物や通院といった生活の基盤として自動車を利用している方がほとんどです。
前項で紹介した調査では、運転する目的として約7割の人が買い物のためと回答しています。
運転自体の好き嫌いにかかわらず、車がなければ生活ができないという人が多いのです。
自家用車以外の交通手段が乏しくなり、生活必需品などの買い物が困難な状況に置かれてしまっている人を買い物難民と言います。
買い物難民にならないために・自宅で生活を続けていくために、自動車が欠かせない移動手段になっていることが考えられます。
相談窓口の存在を知らない
年齢や疾患によって運転免許の自主返納をした方が良いのか…高齢者が悩んだときに『どこに相談すれば良いのか知らない』という人が7割近くもいることがわかりました。
また運転免許の自主返納を行うことで得られるメリット(支援制度)についても、『知らない』と回答した人は約6割、『メリット(支援制度)が十分だと思う』と回答した人はたったの4割でした。
相談窓口の存在を知らずに次の免許更新まで先延ばしにしてしまっている人、免許返納のメリットが感じられないため不安を抱えたまま運転を継続している人が多いという実態が浮き彫りになっています。
どこで手続きをすれば良いのか、相談窓口はどこにあるのか、自治体の支援制度にはどのようなものがあるのかなどを広く周知することが喫緊の課題であるといえるでしょう。
参考:運転免許証の自主返納制度等に関する世論調査|内閣府政府広報室
運転免許を自主返納するメリットとは
高齢者の運転免許の自主返納には、さまざまなメリットがあります。
運転免許を自主返納することで得られる代表的なメリットを3つご紹介しましょう。
運転中の事故のリスクを回避できる
運転免許の自主返納をすることで得られる最大のメリットは、運転中の事故のリスクを回避できることです。
内閣府が行った調査によると、
- 令和元年における75歳以上のドライバーが起こした死亡事故件数は625件
- ブレーキとアクセルによる踏み違い事故については75歳以上の高齢運転者は全体の7.0%
という高い数字が報告されています。
ニュースでは頻繁に高齢者の交通事故が報道され、命を落とす重大事故も少なくありません。
高齢者自身の命だけではなく、他人を巻き込むことも考えられるため、運転免許を自主返納すれば事故のリスクを減らすことが可能になります。
参考:高齢運転者の交通事故の状況 令和2年交通安全白書|内閣府
車に関する維持費がかからなくなる
車を維持するには費用がかかります。
- ガソリン代
- 車検代
- 任意保険代
- 修理費用
- 駐車場代
運転免許を自主返納し、車を手放すことで維持費がかからなくなるというメリットがあります。
筆者の知人は、車がなければダメだと思い込んでいたものの、車をぶつけたりこすったりすることが増えたため、泣く泣く運転免許を自主返納をしました。
しかし実際に返納してみると、タクシーなどを利用した交通費は車の維持費より安かったそうです。
車の維持費を削減できることは、運転免許の自主返納で得られるメリットの一つといえるでしょう。
特典や割引を受けることができる
運転免許を自主返納すると、自治体で定められた特典や割引を受けることができます。
【免許返納の特典の例】
東京都 | ●患者移送サービス30%割引 ●タクシー料金の10%割引 ●金融機関の金利優遇 ●ホテル・レストランでの飲食代10%割引など |
大阪府 | ●タクシー料金の10%割引 ●バスの回数券配布 ●地域商店街の商品割引券 ●眼鏡・補聴器・電動カートの購入代金割引 など |
運転免許を自主返納することで、買い物に行けない・通院ができないなどの課題を解決するために、各自治体は地域性を活かした支援策を実施しています。
移動だけに限らず、商品購入や飲食の割引などもあるため、住んでいる地域でどのような支援策があるのかを調べておくこともポイントです。
運転免許自主返納の手続き方法
運転免許の自主返納をしない理由の一つとして、手続きに関する情報を知らないということも挙げられます。
運転免許の自主返納はどのように行うのか、基本的な流れをご紹介しましょう。
手続きの窓口
運転免許の自主返納ができる手続きの窓口は主に4つあります。
- 最寄りの警察署
- 運転免許センター
- 運天免許更新センター
- 交通安全協会
自治体によって受付機関が異なる場合もあります。
事前に自治体の広報やホームページなどで確認することが大切です。
必要なもの
必要な物は下記の3つだけです。
- 運転免許証
- 手数料1,100円
- 申請用写真(運転経歴証明書の交付申請用)
運転経歴証明書が不要な場合は、運転免許証だけでOK。
紛失などで運転免許証が手元にない場合は、住民票やマイナンバーカード(通知カード不可)など住所・氏名・生年月日が確認できるものを用意してください。
運転経歴証明書の発行
運天免許を身分証明書として使うことが多い人は、免許証を自主返納したら身分証明書が無くなってしまうと考えてしまうかもしれません。
そこで利用したいのが運転経歴証明書です。
運転経歴証明書とは、運転免許に記載されていた情報を証明するもので、本人確認書類としても使用できます。
自主返納の手続きの際に発行を同時に申請できるので、手間もかかりません。
大きさも免許証と同じ大きさなので、持ち運びにも便利ですよ。
運転免許の自主返納・親にどう話す?
高齢の親を持つ子ども世代にとっては、運転を継続することによる交通事故のリスクがもっとも気になるところでしょう。
何とか運転免許の自主返納を勧めたいけれど、どう切り出したら良いのかわからないという方もいらっしゃるはずです。
そこで運転免許の自主返納について、親にどう伝えるのかというポイントを3つご紹介します。
車をどのように使っているのかを聞く
まず現状として車をどのように使っているのかを聞きましょう。
高齢者が運転免許を自主返納をしない理由は先にご紹介しましたが、移動手段以外にも理由は複数考えられます。
- 車の運転が趣味
- 車を二度と運転できなくなるという喪失感
- マイカーを手放したくない
などです。
移動手段で使用している場合には、免許返納後の移動手段について一緒に考えてみてください。
近所に住んでいて自分たちが送迎できるという場合は、協力をしましょう。
遠方に住んでいる場合は、代替となる手段を提案してあげることで、高齢者も安心できるはずです。
車を手放すことのメリットを伝える
運転免許の自主返納=車を手放すことのメリットを伝えてあげることも大切です。
自治体の支援策を調べ、どんなメリットがあるのかをくわしく説明してあげましょう。
また車を維持することでかかる費用を一覧表にまとめ、具体的にどのくらいの金額がかからなくなるのかを可視化することも有効です。
話し方・話し合う時間帯に注意する
一方的に話を進めたり、高圧的な話し方をしたりするのは絶対にNGです。
あくまでも話し合いという姿勢を持つことがポイントになります。
やらなければいけないことがある時や、食事前などはイライラしがちです。
お互いに忙しい時間帯は避け、ゆっくりと話せる時間を設けて話し合いましょう。
拒否された場合の対処方法
話し合いをしても、高齢者から拒否をされてしまうことがあります。
そんなときは無理に話を進めず、何度も時間をかけて話し合ってください。
- 移動手段として車を使っている場合:代替手段の提案をしてみる
- 趣味やステータスとして運転を継続している・喪失感を抱えている場合:理解を示した上で家族が協力できることを伝える
- 意固地になっている場合:すでに免許返納をした人から話をしてもらう
特に長期間車を運転してきた人にとって、運転免許の自主返納は大きな喪失感を伴います。
頭ごなしに否定するとかえって事態を悪化させてしまうので、今までの生活を振り返って、車がどんな役割を果たしていたのかを知る努力が必要です。
まとめ
運転免許の自主返納は、高齢者自身を守るためのものです。
しかし生活環境や健康状況によっては、返納をためらってしまうケースも多いでしょう。
運転免許の自主返納にはメリットもあります。
自治体の支援策をしっかりと調べ、車を手放すことのメリットを理解することが大切です。
家族から話をする場合には、まず高齢者の立場に立って考えることがポイント。
協力できるところは協力し合い、生活に不安を抱えることのないようにサポートをしてあげてください。