事例集

【事例集】在宅介護に疲弊…介護を続けていくために知っておきたい対処法とは

介護は誰にでも起こり得る状況で、年齢・性別に関係なく向き合わなければいけない問題です。

筆者は訪問介護事業所でサービス提供責任者として勤務していましたが、在宅介護にはたくさんの課題があると感じていました。

利用者さんの家族には『自分が介護しなければいけない』と在宅介護の負担に追い詰められてしまうケースも少なくありません。

そこでこの記事では、筆者が実際にお会いした利用者さんの事例を3つご紹介します。

在宅介護でお悩みの方は、ぜひ負担軽減のための参考にしてください。

介護離職をしたAさんのケース

Aさんは40代の女性。

若い頃から病弱だった母親の面倒を見ながら、実家で一緒に暮らしていました。

Aさんの母親は複数の病気を患っていましたが、特定疾病などに認定されなかったため介護認定は要介護1。

週2回の訪問介護以外はAさんが母親の介護を担っていました。

一人娘の自分がやらなくちゃ

Aさんは一人娘。

Aさんが20代の頃に父親が他界し、母親と2人で生活をしていました。

母親は病弱で、Aさんが子供のころから複数の病気を抱えて、入院をすることもしばしばある状態。

70代に入ると腰や足の痛みが生じ、外出もままならない状態となりました。

介護の知識や技術がない!

Aさんは働きながら母親の介護をしていましたが、身体的・精神的に追い詰められてしまい、介護離職をしてしまいました。

長年働いてきた会社だったので、多少の退職金は出ましたが、いつまでも悠々自適に暮らせるほどの金額ではなかったそうです。

会社を辞めていざ母親の介護に専念しようとしたとき、Aさんは自分に介護の知識や技術がまったくないことに気付きました。

母親の訪問介護をしていた私たちの元へ相談を受けたのは、Aさんが介護離職をされた後のことで、ケアマネージャーと連携してヘルパーの勉強ができる講座を紹介したのです。

在宅介護を行うには基礎的な知識や技術が必要です。

技術を学ぶということは、自分自身の身体的負担の軽減できる介助方法や、要介護者の方の安全・安楽な状態を守ることに繋がります。

Aさんは介護の技術だけではなく、介護保険の仕組みや保険外サービスなどについても学ぶことができたと言っていました。

介護離職をしなくても介護はできる

Aさんはその後母親と話し合いながら、利用できるサービスを少しずつ増やしていきました。

そして一度は離職をされましたが、再就職をし、働きながら在宅介護を継続されています。

Aさんは『自分がやらなければいけないと思っていた。助けを求めたくてもどこに行けばよいのかわからなかったし、他人を頼ることはいけないことなんだと勝手に思い込んでいた。』

『要介護度が低くても介護が必要な人はいるし、そのために民間の保険外サービスもある。自分が仕事を続けていくことで、生活も安定して介護費用にも充てることができる。』

と話してくれました。

介護離職は社会の抱える大きな問題です。

家族だけが介護をするのではなく、利用できるさまざまなサービスをフルに活用することで、介護離職をしなくても在宅介護はできるとAさんが身をもって教えてくれたと思っています。

自分を追い詰めてしまったBさんのケース

Bさんは50代の女性で、認知症の母親を在宅で介護していました。

Bさんご自身にもご家族がありましたが、一人暮らしの母親を介護するために単身赴任のように実家で暮らすことにしていたのです。

Bさんが自宅に帰れるのは、母親がデイサービスに行っている時間だけ。

ご主人やお子さんの協力もあって、最初は問題なく生活できていたといいます。

施設を嫌がる母親

Bさんの母親は徐々に認知症が進行し、デイサービスの職員からも施設入所を勧められるようになりました。

確かに認知症からくる問題行動が増え、Bさんは在宅介護に疲弊していました。

施設入所の話を母親にすると、感情的になって暴言を吐いたり『私は姥捨て山になんか行かない!』とひどい拒否反応を示したそうです。

Bさんが私たちに相談をしてくれたのは、この段階でした。

Bさんは非常に疲れた様子で、身体的にも精神的にも追い詰められてしまっている様子が見受けられたのです。

誰にも相談ができない

Bさんは母親の認知症について、誰にも相談ができないと言っていました。

認知症の進行を見ていると、母親が壊れていくようで、身内にも見せられなかったと。

特に自分の子ども達には、昔の元気で優しいおばあちゃんのイメージをずっと持っていてほしかったから、認知症を患った母親とは会わせたくないと思ってしまったそうです。

確かにBさんの母親は、認知症特有の被害妄想や物取られ妄想が強く、Bさんを強く罵ることが多くありました。

閉鎖された空間で『自分が介護しなければいけない』というプレッシャーと闘い、常に暴言にさらされている状態ではBさんが追い込まれてしまうことも想像に難くない状況だったことは確かです。

そこでケアマネージャーは施設入所への作戦を提案しました。

施設入所は悪ではない

Bさんの母親はとにかく施設入所を嫌がっていましたが、デイサービスには嫌がらずに行っていました。

職員の話では、仲の良いお友達と楽しそうに過ごしていることが多く、不機嫌な様子や拒否をする様子は見えないというのです。

そこでケアマネージャーは通っているデイサービスがある施設への入所をBさんに相談しました。

その時点ではBさんの母親の認知症はかなり進行していたので、あまり待機せずに入所できるという状況でした。

デイサービスの職員にも協力してもらい、施設への抵抗がなくなるように働きかけていったのです。

3ヶ月ほど時間はかかりましたが、Bさんの母親は無事施設へ入所しました。

Bさんも施設入所は考えていなかったとのことでしたが、専門的な知識を持つスタッフに手厚い介護を受けている母親を見て、施設に入れて良かったと安心したそうです。

何よりBさんの身体的・精神的な疲れが無くなり、以前のような気持ちで母親に接することができるようになったという報告を受けたときは、とても嬉しかったのを覚えています。

大病を患ってしまったCさんのケース

Cさんは30代前半の女性で、同居する母親の介護をしていました。

Cさんの母親は50代で若年性アルツハイマー型認知症を発症。

父親と2人で母親の介護を行っている人でした。

認知症の母親を介護しながら自分がガンに…

安定した生活を突如襲ったのは、Cさんの大病でした。

自分の健康を顧みる時間がなかったのか、ステージⅢの乳がんだと告知されてしまったのです。

異変には気付いていたものの、なかなか受診する時間がなく、進行してしまっていたそうです。

入院して手術を行い、その後は放射線や抗がん剤の治療が必要な状況になり、Bさんは母親の介護のことが気になってなかなか決心ができなかったと言います。

入院中の介護はどうするか、私たちに相談してきたCさんは、父親のことも心配だと話されていました。

入院中の介護はどうする?

Cさんの父親は母親よりも10歳近く年上で、認知症こそないものの身体に痛みを感じ、他人の介護をできるような状態ではありませんでした。

そこでケアマネージャーが提案したのは、母親のショートステイ利用と父親の介護認定でした。

  • Cさんが担っていた部分をショートステイの利用で軽減すること
  • 父親の介護認定を行い在宅介護(生活支援)を行うこと
  • 日々の食事・掃除などに関しては保険外サービスを利用すること

Cさん自身の身体が完全復活することは難しそうだということで、少しでもCさんの負担を軽減できるようなプランを練っていったのです。

保険外サービスの利用で負担は軽減できる

幸いCさんは2週間程度で退院できましたが、やはり自身のリハビリや抗がん剤の副作用などで以前のように動くことは難しくなっていました。

そこで両親の介護をできる限り在宅で行うため、介護保険だけでは担えない部分を保険外サービスで補うことで生活を成り立たせていったのです。

Cさんいわく『確かに費用はかかるけれど、足りない部分は今まで自分がやらなければと思っていた部分。自分が動けなくなってもその部分を担ってくれるサービスがあることは本当に心強い。』と話されていました。

自分自身の健康に不安を抱えた場合、介護にどう対応すべきか、私たちはCさんにいろいろなことを教えてもらったと思っています。

まとめ

在宅介護には、各家庭それぞれの事情が絡み、一つの方法だけでは成り立たないことが多いです。

規則にがんじがらめの部分もあり、わかりにくい制度であることも否めません。

それでも自分が介護の問題を抱えたときには、一人で悩まずに自治体や介護事業所などに相談することが解決への一歩だと思います。

専門家の手を借りたり、保険外サービスを利用したりすることで、さまざまな問題が解決することがあるのです。

今回の事例を参考に、『介護保険だけでは物足りない』『負担が大きすぎて疲弊している』という人は、ぜひ相談する勇気をもってみてください。

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