事例集

40~60代以上に急増!重くのしかかるトリプルケアの実態

子育てと介護を同時に行わなければいけないダブルケアが、社会的な問題となっています。

しかし人生100年時代と言われる現在では、ダブルケアを上回るトリプルケアにも目を向けなくてはいけません。

40代~60代に急増するトリプルケアは、介護うつ・虐待・介護離職による経済的な破綻などさまざまな問題を引き起こす可能性がありますが、公的な支援が行き届いていないのが現実です。

そこでこの記事では、訪問介護事業所での勤務経験がある筆者が、実際に見聞きしたトリプルケアの事例をご紹介します。

トリプルケアとは何か

トリプルケアとは、子育てに加えて親・祖父母などの介護を合わせて行わなければいけないことを指します。

中には『親・子ども・孫』『両親と子ども』をケアしなければいけないというケースもありますが、公的な支援や相談窓口が整備されていないのが現状です。

トリプルケアの原因として考えられるのは?

トリプルケアになる原因は、晩婚化・少子高齢化など現在の日本の特徴が反映されていると考えられます。

トリプルケアには複数のパターンがあります。

  • 子育て+親の介護+祖父母の介護
  • 子育て+両親の介護
  • 子育て+実親の介護+義両親の介護
  • 親の介護+子どものケア+孫のケア

晩婚や晩産が増えてきている現代では、子育てと介護が同時期にやってくるケースが多く見受けられます。

元気な高齢者が増えてきているとはいえ、晩婚・晩産の場合は親世代が高齢者となっていることが多く、中には介護が必要なケースも…。

また未婚者の増加によって、両親の介護を一人で背負わなければいけないというケースもあります。

核家族化によって頼れる身内が近くにいないこと・不況による経済的な事情なども一因として挙げられるでしょう。

トリプルケアにならないための対策はあるのか?

残念ながら、トリプルケアに特化した対策というものは現在の日本にはありません

トリプルケアに関する有効な対策としては、介護サービスや育児支援などの公的サービスだけではなく、民間のサービスを利用することなどが挙げられます。

ただし介護関係・育児関係の単体でのサービスは提供されていますが、トリプルケア(ダブルケア)専門のサービスというのは、未だ確立されていません。

少子高齢化はますます進んでいき、未婚・晩婚が増えていくと今後はさらにトリプルケアのサポートが必要になっていくと考えられます。

【事例①】姑の介護と孫の世話で退職したAさんのケース

【Aさんの状況】

  • 54歳・女性
  • 義理の母(81歳)・夫(57歳・単身赴任中)・娘(28歳)・孫(1歳)と同居中
  • 義理の母は要介護2で在宅介護中

姑の介護は自分一人で

Aさんと出会ったのはAさんの義理の母の訪問介護がきっかけでした。

Aさんの夫は単身赴任中で、帰宅できるのは1ヶ月に1回。

軽度の認知症と診断されたお姑さんの介護を一人で担っていました。

担当のケアマネージャーから姑の身体介護を担当してほしいとの話があり、初回の訪問で対応してくれたのがAさんでした。

Aさんはかなり疲れた様子でしたが、お姑さんの日頃の様子や困っていることなどを話してくれたのです。

出産・離婚後体調を崩した娘

お姑さんのいる部屋で話を伺っているとき、別の部屋でまだ小さい子どもの泣き声が聞こえました。

出産して間もなく離婚をした娘さんが同居していること、娘さんは体調を崩していて仕事ができず、お孫さんの面倒が見れない状態であることがわかりました。

離婚によりかなり精神的なショックを受けていて、子育てをすることもままならない状態とのこと。

Aさんは一人でお姑さん・娘さん・お孫さんのケアをしていたのです。

お姑さんは被害妄想や物取られ妄想が強く、Aさんを口汚く罵ることもあり、Aさんは精神的にも身体的にも限界に近づいていることが見て取れました。

Aさんを少しでも楽に…ケアマネの提案

Aさんの現状を把握したケアマネージャーは、単身赴任中のご主人にも連絡し、Aさんを少しでも楽にする方法について話し合いました。

お姑さんのショートステイ・デイサービスの利用、娘さんのカウンセリング、お孫さんの保育園利用…関係各所と連携をとり、Aさんが休息できる時間を確保するようにしました。

また保険外サービスを利用し、経済的に許す範囲で家事代行サービスなどを利用することを提案したのです。

驚いたのは、ご主人がAさんの状況をあまり理解できていなかったこと。

気丈なAさんは泣き言を言わず、一人で抱え込んでしまっていたのです。

【事例②】子育てと両親の介護が必要なBさんのケース

【Bさんの状況】

  • 40歳・女性
  • 37歳で出産・子どもは保育園児
  • Bさんの両親は高齢出産だったため既に80代・共に要介護状態
  • Bさんは一人娘

高齢出産で産まれたBさんの介護問題

Bさんは筆者が勤務していた訪問介護事業所と同じビル内の不動産屋で事務を担当していた女性でした。

会えば挨拶をする関係でしたが、ある日突然姿を見かけなくなったのです。

後日談でわかったことですが、Bさんは介護問題で離職してしまっていました。

Bさんは高齢出産で産まれた子どもだったため、両親はすでに80代。

ご自身は37歳で出産し、お子さんはまだ保育園に通っていました。

両親は認知症こそ発症していないものの、身体の痛みや持病などが原因で要介護状態となっていたのです。

Bさんは一人娘…忙しいご主人に頼ることもできず、ワンオペ育児に加えて、両親の介護も担っている状態でした。

保育園児を抱えての介護生活

Bさんは実家の近くに住んでいたため、両親の面倒は以前からみるつもりでいたそうです。

しかし実際に自分の生活にプラスして両親を介護する生活は、想像を絶する大変さがあったといいます。

お子さんはまだ保育園…ちょっとした反抗期も重なり、Bさんはどうしていいのかわからなかったと話していました。

ご主人は理解こそあるものの、実際に育児や介護に割ける時間はなく、疲れ切っているBさんを助けてあげることができない状態でした。

そんなBさんの姿を見かけなくなったのは、介護による退職=介護離職をしていたからだったのです。

介護離職をして気付いたこと

Bさんと再び出会ったのは、訪問介護の問い合わせをもらって、面談をした時でした。

以前は元気で明るい印象だったBさんは、別人かと思うほど痩せてしまい、身体的・精神的に限界が近いことが見て取れました。

介護離職をして昼間の時間は確保できたものの、今度は経済的な不安に悩まされてしまったそうです。

担当のケアマネージャーはすぐに公的支援が受けられるように、関係各所に連絡を取りました。

Bさんの両親は経済的に余裕がなくBさんが援助していたこと、介護に関する知識や相談もないまま両親の生活を支えていたこともわかりました。

その後、ご両親は介護保険の範囲でヘルパーの派遣やデイサービスを利用することになり、Bさんは復職することができたのです。

【事例③】未婚の母を選んだ娘のケアも…Cさんのケース

【Cさんの状況】

  • 63歳・女性
  • 30年ほど前に離婚し女手一つで子どもを育て上げた
  • 90代の母親は同居・要介護状態
  • 娘(35歳)は未婚で子供を出産・経済的に自立できずCさんと同居している

自分もシングルマザーだから

Cさんは筆者の勤務する介護事業所でヘルパーとして働いていた人でした。

テキパキと適切に仕事をこなし、後輩の育成にも携わるベテランヘルパーだったのです。

ご自身の母親を介護しているという経験もあり、介護に関する情報収集なども積極的に行う人でした。

しかしある夏を境に、休暇を取ることが増え、体調も思わしくない状態が続くようになったのです。

Cさんが離婚後、女手一つで子どもを育てたこと、お孫さんが生まれたことは周囲も知っていましたが、Cさんがトリプルケアに悩んでいることは誰も知りませんでした。

気丈なCさんは大変な状況をおくびにも出さなかったため、周囲が気付かないまま事態が悪化してしまったのです。

未婚の母を選んだ娘のサポートが大変

後日Cさんと面談をすることになりました。

体調などを考えれば、今までのようなシフトは組めないからです。

そこで初めて、Cさんの状況を聞くことができました。

娘さんは未婚で子供を出産したこと、経済的に自立できないため同居しているが未だに就職していないこと、孫の世話をあまりしないので自分が孫の面倒までみていること…実母の介護は介護保険制度を利用していたため、それほど負担ではなかったものの、娘や孫の分まで働かなければいけないのが大変だったそうです。

持病の腰痛もぶり返してしまい、介護の仕事は厳しい状態だとドクターストップも受けていました。

「でも私が仕事しなかったら、うちは誰も働けないことになる」Cさんは経済的な不安と自身の痛みにひどく悩まされていたのです。

母親・娘・孫のケアしかない毎日

Cさんは「自分もシングルマザーだから、娘の大変さはよくわかる。でも働けないんじゃなくて働かないのはどうしたものか。自分は母親の介護もあるのに、娘や孫の面倒も見なければいけない。母親・娘・孫のケアしかない毎日で気持ちも塞いでしまう。」と話してくれました。

CさんからのSOSを受けて、所属していたケアマネージャーが社会福祉事務所と連携をとり、娘さん親子は母子生活支援施設での生活が決まりました。

Cさんの母親には経済的に無理がないよう、デイサービスやショートステイをうまく利用しながら在宅での介護が継続できるようなケアプランが作成されました。

まとめ

今回ご紹介した事例は、どのケースも周囲にSOSを発信できなかったことが原因の一つと考えられます。

ただし、トリプルケアに関しては『誰(どこ)に相談すれば良いのかわからない』『そもそも相談できる窓口がない』という根本的な問題があり、気軽に相談できるシステムが構築されていないのが現実です。

Cさんのように介護の世界で働いていても、実際に自分の身に降りかかってくるとSOSの発信ができませんでした。

トリプルケアで悩みを抱えている方は、まだまだたくさんいるはずです。

相談窓口を設置し、専門家に対応してもらうことで問題が解決する人も少なくないでしょう。

一刻も早く問題解決に向けての取り組みやシステムの構築が必要です。

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