身近な人で物忘れの症状がみられると「これは認知症…?」と、不安が募りますよね。
しかし、その物忘れは年相応なのか認知症なのか、ポイントを把握していなければ区別が困難だといえるでしょう。
本記事では認知症の主な症状や種類の紹介とともに、物忘れの確認点を解説します。
1.認知症の基礎
世間にも広く浸透された認知症。
しかし、具体的な症状や、さまざまなタイプにわけられている事実はあまり周知されていません。
認知症はいかに早く発見して治療が実施できるかが勝負といっても過言ではありません。
まずは、認知症とはどのような状態であるのかを確認してみましょう。
認知症とは
よく間違われますが認知症は病名ではありません。
脳の萎縮や障害、脳細胞の死滅で「理解力」「判断力」などの認知機能が低下し、日常および社会生活が困難となる状態です。
症状の進行はゆっくりですが、最終的には寝たきりとなり、日常生活全般で介護が欠かせない状態となります。
一度死滅した脳細胞は元に戻らないため、現在の医療ではほとんどの認知症は改善できません。
しかし内服薬やリハビリ、生活環境の改善などで症状の進行を食い止めることが可能であり、そのための早期発見が重要なカギとなります。
進行速度は個人差がある
認知症は大まかに「初期」「中期」「末期」に分けられ、進行速度は年齢や症状によって異なります。
どの症状も年単位でのゆっくりとした進行ですが、時間経過とともに重症化は避けられません。
しかし、早い段階での適切なケアが進行を緩やかする重要なポイントなので、初期から治療を開始するために、変化に気づく視点や見守りが大切だといえるでしょう。
認知症の症状が改善する場合も
認知症は治癒しないと考えられていますが、原因の除去で症状が改善する場合もあります。
例えば「正常圧水頭症」や「慢性硬膜下血腫」で確認できる認知機能の低下は、発症を見逃さなければ早期治療で回復が期待できます。
また、「甲状腺機能低下症」や「栄養障害(ビタミンB12欠乏など)」が原因で認知症の症状が出現している場合は、内服などで改善が見込めるでしょう。
どの場合でも早期発見・早期治療が重要となるため、異変時は医療機関に受診することをおすすめします。
2.認知症の主な4タイプ
認知症は、特にこれから挙げる4つのタイプが代表的な症状であり、認知症の患者全体で90%以上を占めるほどです。
しかし多くの初期症状はせん妄やうつ病などと間違われやすく、慎重な経過観察が欠かせません。
特徴を押さえて、正しい知識を身につけましょう。
アルツハイマー型認知症
現在の日本では「アルツハイマー型認知症」が最も多く、認知症全体の67.6%とかなりの比重を占めます。
脳の海馬の萎縮や神経細胞の変異によって発症し、初期症状は激しい物忘れの「記憶障害」や、時間・場所がわからなくなる「見当識障害」など。
本人に認知症の自覚がない場合も多く、症状の進行で「物盗られ妄想」や「徘徊」「無気力」「不安感」などが強く現れるので、周囲の理解や協力が重要となるでしょう。
症状は年単位でゆっくりと進み、8〜10年ほどで寝たきりとなってしまいますが、内服薬や脳のリハビリなどで進行の緩和が期待できます。
脳血管性認知症
認知症で19.5%を占める脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などにより脳細胞が壊死して発症します。
このタイプは心疾患や糖尿病などの持病を持つ場合も多く、脳血管に障害が起こる頻度によって悪化速度も異なります。
主な症状は、脳細胞の壊死した部位に応じた「手足の麻痺・しびれ」「知覚麻痺」「言語・記憶障害」など。
認知症の自覚を持つ場合が多く、自身でできることとできないことの差による心のアンバランスな状態に失意し、うつや妄想などの二次的な症状に発展する懸念があります。
気持ちの理解が必要不可欠であり、本人の心理状態を踏まえながらのサポートが大切です。
レビー小体型認知症
「レビー小体」という特殊なたんぱく質が脳内に形成・蓄積されることにより、神経細胞が破壊されて発症します。
日や時間帯で意識が鮮明な時もあれば不鮮明な時もあり、この状態を繰り返しながらの進行が特徴です。
症状は、その場にないものが見える「幻視」や、四肢の筋肉がこわばる「パーキンソン症状」、起立性低血圧や便秘といった「自律神経症状」など非常に多岐にわたります。
症状に応じた細やかなサポートが必要であるとともに、アルツハイマー型認知症と比較すると進行が早いので、常に早期対策が重要です。
前頭側頭型認知症
脳の前頭葉と側頭葉の神経変性によって発症し、他の認知症とは異なる症状が現れます。
40~60代の罹患者が多く、詳しい原因はまだ解明されていません。
主な症状は、前頭葉と側頭葉のダメージによる「人格変化」や「異常な行動」「同じ言葉の繰り返し」など。
「指定難病」に認定されており、現在の医療ではこの認知症に対して根本的な治療法はありません。
進行を緩和するための対症療法が治療の中心となります。
症状のひとつとして「反社会的行動」や「自己本位的な行動」なども認められることから、周囲の理解や、トラブルを事前に防ぐ環境整備が大切です。
3.高齢による物忘れと認知症による物忘れの違い
多くの人は60代頃から「脳の老化」が始まり、記憶力や判断力などの衰えが現れます。
年相応の物忘れは自然現象なので誰にでも起こり得ますが、認知症の初期段階と症状が類似し、判断が困難です。
高齢なのか認知症なのか、物忘れの際に現れる違いを確認しましょう。
高齢による物忘れ
高齢による物忘れは脳の老化に応じた脳機能の衰えであり、「夕飯のおかずが思い出せない」などの現象は自然と発生します。
このような場合、ふとした拍子や些細なきっかけで記憶がよみがえるため、脳内の情報を引き出す能力が低下しているに過ぎません。
他にも体験の一部のみを忘れる、物忘れの自覚があるなど、記憶自体は忘れていないことが特徴として挙げられます。
認知症の物忘れ
認知症による物忘れは、脳の記憶をつかさどる海馬に悪影響が生じているために発生します。
特徴として出来事や体験自体を記憶できない、または5分程で忘れてしまうといった点が、高齢による物忘れとの大きな違いです。
他にも、本人は物忘れの自覚がない、忘れた(記憶していない)部分を取り繕って作り話をする、などが挙げられます。
つまり「覚えることができないので、思い出せない」症状だといえるでしょう。
認知症は脳の病気なので、早急に受診が必要です。
4.まとめ
平均寿命が延び、少子高齢化や超高齢社会がますます進むと想定される日本。
それにともない、今後はさらに認知症患者の増加も予測されます。
認知症は早期発見や対応で進行を食い止めれば、本人はもちろん介護者の負担も減らすことが可能です。
身近な人の発症リスクを考え、認知症への理解を深める意識が大切だといえるでしょう。