超高齢化社会を迎えようとしている日本…2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると言われています。
認知症の方を在宅で介護する方も増加することが見込まれていて、認知症を患った家族とのコミュニケーションに悩む人も多くなるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、認知症ケアの一つでもあるバリデーションケアについてご紹介します。
現在介護をされている方も、これから介護をすることが考えられる方もぜひ参考にしてください。
バリデーションケアに関する基礎知識
バリデーション(validation)とは、『確認』や『検証』を表す言葉で、『有効であるかを検証する』という意味を含みます。
バリデーションという言葉はIT業界・医薬品業界など他の業界でも使われている言葉です。
介護の業界におけるバリデーション、バリデーションケアとはどのような意味を持つのか、バリデーションケアという手法に関する基礎知識をご紹介します。
バリデーションケアとは?
介護の業界におけるバリデーションケアという言葉は、認知症の方とのコミュニケーションの手法として使われている言葉です。
認知症介護におけるバリデーションケアとは、認知症の方のさまざまな感情に寄り添い、共感することを指します。
認知症の方とのコミュニケーションはたとえ家族であっても難しいことが多く、『子どもに戻ったようだ』などと例えられることも多いほど…。
記憶や認知能力が衰えても、喜怒哀楽といった感情は残っているのが認知症の特徴です。
バリデーションケアでは、認知症の方の行動・言葉・感情には理由があると考えて、会話をしながらなぜそのような言動を取るのかを探っていきます。
バリデーションケアの目的
認知症介護において、バリデーションケアの目的は主に2つあります。
- 認知症の方の感情表出ができるようにする
- 人生の未解決の課題への取り組みを支援する
認知症の方は自分の感情をうまく表現することができず、コミュニケーション不足から孤独感を募らせてしまうことがあります。
バリデーションケアでは、怒り・悲しみ・不安などのネガティブな感情も外に出し、周囲に共感・共有してもらうことを目的としています。
バリデーションケアで得られる効果
バリデーションケアは認知症の方だけではなく、介護を行う家族にもメリット=効果があります。
どのような効果が得られるのか、それぞれのメリットをご紹介しましょう。
認知症の方が得られる効果 | ●ストレスや不安が軽減される ●特徴的な行動や心理症状が緩和される ●他者との交流を持てるようになる ●自尊心を回復することができる |
介護をする方が得られる効果 | ●認知症特有の言動を受け入れることができる ●信頼関係を築くことができる ●コミュニケーションの復活ができる ●介護に対するストレスが軽減される |
バリデーションケアは難しいとされるお互いのコミュニケーションを促進する効果があります。
『どうしたらいいのかわからない』というフラストレーションが軽減されることで、介護をする側の負担が少なくなることは大きな効果といえるでしょう。
家族ができるバリデーションケアの方法
在宅で認知症の方を介護する場合、メインで介護に携わるのは家族です。
バリデーションケアを実践する上で、具体的にどのようなことをすれば良いのか、その方法をご紹介します。
話をしっかりと聞く
話をしっかり聞くという姿勢は、バリデーションケアの基本です。
認知症の方の話を支離滅裂でよくわからないと決めつけず、なぜそのようなことを言うのかを考え、共感することがポイントになります。
例を挙げると、「ごはんをまだ食べていない」と言われた場合、すでに食べているケースでは「もう食べたでしょ」などと言ってしまいがちですが、これはNG。
「何が食べたいの?」「誰と食べたいの?」など、相手の言いたいことを知るために質問をしてみるのがおすすめです。
「また同じことを言ってる」と感じることもあるかもしれませんが、何を言いたいのかをしっかりと聴くことで、言動が落ち着くことが考えられます。
否定をしない
認知症の方の言動を否定してしまうことは絶対に避けてください。
「ダメ」「違う」などと否定されてばかりいたら、どうしたら良いのかわからなくなり、認知症の方はさらに混乱してしまうからです。
「そういうことばかり言って」「その話はもう聞いた」なども同じ意味を持ちます。
認知症であるその人のことをありのまま受け入れることがバリデーションケアの基本です。
特に家族の場合は気兼ねなく言ってしまいがちな言葉でも、否定や評価につながるような内容は避けましょう。
こちらのペースに誘導しない
バリデーションケアでは、誘導・強制はNGとされています。
介護をしていると、どうしてもこちらのペースに合わせたくなってしまいますが、主体は認知症の方であることを忘れないようにしましょう。
歩くスピード・呼吸・表情などを介護する側が合わせるように心がけなくてはいけません。
「○○しなくちゃ」「○○はダメ」などの強制も、認知症の方にとってはストレスになってしまうことを覚えておいてください。
嘘をつかない
嘘をつかないというのは、認知症の方のケアでとても重要なポイントです。
自宅にいるのに「早く帰りたい」という訴えがあった場合、「すぐに帰れますよ」というのは嘘ですよね?
介護をする側に嘘をついているという自覚がなくても、適当に返事をすることで、認知症の方にとっては嘘だと感じてしまうのです。
嘘をつくことは、人間関係において信頼をなくす最大の行為といえます。
嘘をついて落ち着かせようというのは逆効果であることを知っておきましょう。
バリデーションケアを成功させる7つのポイント
バリデーションケアを成功させるには、7つのポイントがあります。
ちょっと難しいと感じてしまうかもしれませんが、覚えてしまうと有効なテクニックばかりですので、ぜひ参考にしてください。
レミニシング | ●過去の出来事や生い立ちなどについて質問をすること ●何度も繰り返される昔ばなしには意味のあることが多い |
アイコンタクト | ●認知症の方の目の前に座って目を見て話すこと ●そばにいても立っていると威圧感を与えてしまうので注意 |
リフレージング | ●相手の話したことを反復すること ●声のトーンや話すスピードも合わせることがポイント |
オープンクエスチョン | ●「はい」「いいえ」では答えられない質問をすること ●5W1Hを基本にして1つずつ具体的な質問をすると良い |
センタリング | ●ゆっくりと呼吸をして精神を集中させること ●ネガティブな感情を整理できる効果がある |
ミラーリング | ●正面に座り表情・動作・話し方・話す内容を真似すること ●行動を合わせることで感情も合わせやすくなる |
タッチング | ●スキンシップをはかること ●タッチングを好まない人もいるため注意が必要 |
まとめ
認知症の方の介護は、非常に大変で難しいものです。
しかし『理解しよう』『何を言っているのか知りたい』という気持ちを持つだけで、言葉や態度が変わり、それが相手にも伝わります。
認知症だから…と決めつけず、認知症の方の抱える不安や恐怖を理解できるように、共感することが大切です。
バリデーションケアというと難しく聞こえてしまいますが、基本は人間関係を築くコミュニケーションと同じ。
もっとも挑戦しやすいのは『傾聴』です。
しっかりと話を聞き、何を言おうとしているのかを聞こうという姿勢だけでも、認知症の方にとっては安心できる要素なのです。