高齢になると食が細くなったり、誤嚥性肺炎を起こすなどして、口から栄養を摂取するのが難しくなる人もいます。
特に、要介護4や5にもなると、自分では食事を食べられなくなり、介助を必要としたする人も多くいます。
また、在宅介護においては、要支援や要介護1や2の人が多く、配食サービスやヘルパーさんによる調理を受けている人も多くいます。
それだけ、食べることに関しては、高齢になればなるほど自分一人では対応できないケースが出てくるのです。
胃婁(いろう)や腸瘻(ちょうろう)などの言葉を聞いたことはありますか?
これらは経管栄養のひとつであり、口から食べられなくなった場合の栄養摂取方法の一つで、介護に直面した場合に覚えておくとよい知識です。
今回の記事で是非参考になさって下さい。
栄養摂取方法① 口から食べる
人間が栄養摂取を行う最も基本的で自然、理想的なものが口から食べる(経口摂取)ことです。
食事の目的は、十分な栄養をとって生命を維持することだけではありません。
口から食事をとることによって、摂食嚥下機能(食物を口の中に入れて飲みこむ機能)だけではなく、唾液の分泌や発語などの口腔機能、食器を扱うなど生活動作を維持することができます。
また、目で見て、香りをかいで、舌で味わうことで感覚が刺激されますし、誰かと一緒に食事をすればそこにコミュニケーションが生まれます。
口から食事をとることは、QOL(生活の質)に大きくかかわる行為です。
ここで、経口摂取のメリットについて考えてみます。
食事で使う動作や機能を維持できる
感覚や知覚が刺激され、脳の活性化につながる
唾液が分泌され口腔内の自浄作用が働くほか、免疫力も向上する
『食べる』という行為が楽しみや癒しにつながる
このようなものがあります。
栄養摂取方法② 経管栄養
経鼻栄養
上記のイラストのように鼻から管を通し栄養を注入する方法です。
身体に穴を開ける手術を受ける必要がありません。
チューブを鼻に挿入して行うので、比較的簡単なことがメリットになります。
口からの食事が難しい方のほとんどに使用することができ、在宅で行うことも可能ですから自宅で生活を続けることもできます。
安定して栄養を摂取することができますし、口からの栄養摂取ができるようになればすぐに止められるのも経鼻経管栄養のメリットとと言えるでしょう。
鼻経管栄養は、胃腸を使うことから身体の自然な栄養摂取に近く、消化管の働きを維持することにつながり、腸の免疫も保たれます。
また、血糖値の急変動が起こりにくいので、体への負担が比較的少なく、口から十分に栄養を摂れない場合の栄養摂取方法として、とても優れているのです。
鼻から胃までチューブを挿入したままの状態で生活することになるため、どうしても違和感があります。
チューブが鼻腔や喉を通るので、口からの食事との併用や嚥下訓練を行うのが難しいと言えるでしょう。
また、チューブが細いことから栄養剤が詰まりやすく、汚れがたまりやすいので1~4週間ごとに交換が必要となり、交換の度に、本人は苦痛や違和感を感じることが多いようです。
経鼻経管栄養を行う際は、チューブを鼻や頬にテープで固定するので目立ちます。
テープによるかぶれなどの皮膚トラブルを引き起こすことも考えられます。
認知症の場合は、自分でチューブを引き抜いてしまう恐れがあるため、場合によっては身体拘束をやむを得ず行うケースもあるでしょう。
胃 婁(いろう)
イラストのように、胃に穴を開けて直接栄養を注入する方法です。
手術によって腹部から胃に穴を開け、そこからチューブを通して栄養を注入する方法のことをいいます。
胃ろうのカテーテル(管)は、体外と胃内にあるパーツで固定されています。
体外のパーツは・・・
ボタン型
チューブ型
の2種類がり、
胃内のパーツは・・・
バンパー型
バルーン型
の2種類があります。
これらを組み合わせ・・・
1.ボタン型バンパー
2.チューブ型バンパー
3.ボタン型バルーン
4.チューブ型バルーン
の4通りに分けられます。
本人の状態や家庭環境などに合わせて、4通りのうちのいずれかを使用することになります。
胃婁を行う主な対象者
消化管の働きは問題ないけども、口に入れたものを上手く飲み込めないなど嚥下機能に問題がある方が対象となります。
誤嚥によって肺炎などの危険性が高まるため、そうしたリスクを抑えながら、必要な栄養を摂取することが可能です。
経鼻経管栄養と違い長期的に使用することができるため、4週間以上の長期にわたり経管栄養が必要な場合に実施されます。
体調が回復すると、口から食事をとる嚥下訓練も併せて行うことができます。
胃婁のメリット
経鼻経管栄養と比較すると違和感や不快感、本人への負担が少ないのがメリットです。
運動やリハビリも行いやすく、特別な処置をせずに入浴することも可能です。
また、チューブを接続する部分が衣服で隠れるため目立ちにくく、チューブを自分で抜いてしまう可能性も低くなります。
胃に直接栄養剤を注入することから、誤嚥や肺炎などを引き起こすリスクが軽減され、必要な栄養を容易に摂取することができます。
胃ろうを行っている間も、口から食事をとることは可能なので、体調が回復してきた場合は嚥下訓練を併せて行うことができます。
胃婁のデメリット
胃に穴を開ける手術が必要になるのがデメリットです。
ただし手術といっても、内視鏡を使用して行う短時間の手術で、比較的負担は少ないと言えます。
誤ってカテーテルを抜いてしまうことがあると、一晩程度の短時間で穴が塞がってしまい、再手術が必要になるため注意しましょう。
胃ろうの周辺は、皮膚トラブルを引き起こしやすいため、清潔に保つケアもしっかり行う必要があります。
カテーテルを定期的にメンテナンスする必要があり、経済的負担と手間がかかるという点もデメリットになるでしょう。
また、口から食事する機会が減ってしまうと唾液の分泌が減り、口腔内が不潔になりやすく、誤嚥などにつながる恐れもあります。
胃食道逆流の危険性もあるため、気を付ける必要があります。
腸 瘻(ちょうろう)
腸瘻はお腹に小さな穴を開けて小腸までカテーテル(管)を通し、そこから栄養をとる方法です。
対象となるのは脳や神経、顔やのどの病気で口から栄養をとることが難しい人や、誤嚥による肺炎を繰り返している人です。
上記で説明した胃婁をつくることが多いのですが、胃がんなど何らかの理由で胃ろうにできない場合に腸瘻をつくることがあります。
また、嚥下訓練を行えば口からの食事が可能になることもあります。
胃婁との違い
まず、逆流が少ないことが最大のメリットといえるでしょう。
腸ろうカテーテル交換には受診が必要となるので手間が掛かります。
カテーテルが細長いために栄養剤が詰まりやすいというメリットが腸瘻にはあります。
また、下痢や血糖値の急激な変動を起こりやすいので、健康管理が重要になります。
経皮経食道胃管挿入術
喉の下あたりに穴をあけ、そこから管を通して栄養を注入する方法です。
主に胃瘻の造設が難しいと判断された人に、栄養管理を行う方法として保険診療が認められている処置となります。
腸閉塞などでの減圧(食道、胃、腸の内容物を体外に排出する方法)としても使用することができます。
のどにチューブを留置することがないため、痛みや異物感、違和感などの患者さんのストレスを大幅に緩和でき、誤嚥のリスク軽減にも繋がります。
挿入後の管理も容易ですので、長期にわたり経腸栄養管理が必要な方に適しています。
栄養摂取方法③ 静脈栄養
静脈栄養には抹消静脈栄養法と、中心静脈栄養法の2種類があります。
抹消静脈栄養 (PPN)
『末梢静脈』といわれる腕や足の静脈に、短いカテーテルを挿入して栄養を直接注入する方法です。
一般的にイメージされる点滴のように、腕にある静脈を使うことが多いです。
経静脈栄養の必要な期間が短い(目安として10日程度)と見込まれると、末梢静脈栄養が行われます。
中心静脈栄養
心臓の近くにある、太くて血流の速い静脈を中心静脈といいます。
一般的には鎖骨下を通る静脈から中心静脈にカテーテルを挿入して、栄養を直接注入します。
経静脈栄養が必要とされる期間が、末梢静脈栄養よりも長く見込まれると(目安として10日以上)、中心静脈栄養が行われます。
まとめ
口から栄養を摂取することがベストですが、何らかの原因でそれが難しくなると医療的な対応によって、栄養摂取をする選択肢があります。
勿論、医師の相談のうえ、本人の考えを尊重して決めていく必要があります。