大きな総合病院に入院すると、すぐに退院を迫られるという経験や話を耳にしたことはありませんか?
実際、本当にそうなのかというとその通りなのです。
日本の入院日数は平成に入ってからどんどん短くなり、2016年の平均入院日数は28.5日となりました。
しかし、入院そのものは増えていて、特に入院した方全体に占める5日以内の短期入院患者の割合は2002年には26.3%だったものが、2014年には34.1%になっています。
患者の立場としては、もっと療養して十分体調が安定してから退院したいと考える人も多いでしょう。
今回は、なぜ大きな総合病院では、早期に退院を迫られるのかを解説します。
病院には3種類がある
急性期病院
病気や事故による怪我により、手術などの医療的対応をすぐにでもしないといけない人が入院する病院です。
例えば、脳梗塞を発症し、手術が無事成功となり状態が安定するとすぐにリハビリが開始されます。
しかし、長期に渡りリハビリを実施してくれるのではなく、医療的な対応が完了し、病状が安定して時点で退院のお話があります。
この記事で解説する、『大きな病院』を指します。
回復期病院
急性期病院で無事、手術などが終わった際、次のステップとしてリハビリ等で身体的機能を回復させるための病院になります。
この病院には、作業療法士・理学療法士・言語聴覚士などの専門資格を持った人たちが大きく関わってくれることになります。
慢性期病院
慢性期病院では患者さんに継続的な治療とリハビリを行い、在宅復帰を目指すために看護を行います。
長期入院の患者も多く、長期的なサポートを行う病院です。
入院期間が短くなっている理由
理由① 医療技術の進歩
身近なところでいえば、転んでできた傷口に対する処置も、近年の医療の進歩によって考え方が違ってきました。
以前は、傷口は消毒をして乾燥させた方が早く治るとされていました。
しかし、今は保湿をしながら消毒は適宜行う方法がとられるようになりました。
消毒液を塗ると傷が痛むのは、傷口では傷を治すため体から体液が分泌され、液の中でいろいろな細胞が働いています。
消毒薬はそれらを殺してしまい、体が治そうとしているのを妨害しているのです。
また、皮膚には他の菌が入ってこないよう我々の体を守ってくれる「常在菌」という良い菌がいますが、消毒液により「常在菌」が死んでしまい、悪い病原菌が侵入しやすくなるのです。
このような理由が背景にあることが分かり、医療に対する考えや技術も変化してきました。
早期発見で軽度なうちに処置できる
特に癌においては、早期発見が早期治療の肝になります。
血液検査や問診、画像検査などによって少しでも早く発見できるようになりました。
癌の部位(腫瘍など)が小さければ小さいほど治療は簡単で、死亡率も低いとされているのが一般的で、それを国民が理解しているからこそ定期健診を受ける機会が増えているようです。
仮に、癌になったとしても、先進医療によって対処できるようになってきました。
理由② 国の政策(医療費適正化計画)の影響
国による『医療費適正化計画』で、入院日数の短期化を目指していることが2番目の理由となります。
若い人よりも高齢者の方が入院や治療を必要とすることが多くなるので、少子高齢が進行する中、成り行きに任せておくと日本全体としての入院者数が増加していくことは避けなれないことが分かります。
そこで政府が2000年代に入って導入した『医療費適正化計画』では、成人病の予防と同時に、入院日数を短くする計画の柱になっています。
当初は都道府県間の入院日数の差が大きいことに着目して、最も入院日数の短い県に入院日数を近づける方針でした。
また、急性期の入院治療を受け持つ大きな病院と、入院前や退院後のケアを受け持つ地域の診療所や中小規模病院という、医療機関の機能分化を進め、入院前後の地域や家庭で受けられる医療を充実させることで、患者が短い入院から安心して帰れる体制作りも進ることになったのです。
この間、病院が医療保険から受ける診療報酬の制度においては・・・
・看護師の配置を手厚くする
・質の高いケアを提供していく
・入院日数を少なくする
などが病院にとって有利になる体系が導入されました。
さらに入院日数を長くしてしまいがちであると指摘されてきた、従来型の入院日数や治療行為が多く積み上がるほど病院が報酬を多く受け取れる出来高払いの診療報酬体系とは別に・・・
・傷病名
・診療行為
・入院日数
これらに応じて定額の診療報酬を病院が受け取る体系の導入も進められています。
早期退院したその後
それでは、早期に退院した後、患者たちはどのような場所で治療や生活を営んでいるのでしょうか?
すぐに自宅に戻ることが出来る患者もいれば、そうでもない患者もいるでしょう。
そんな時、頼りになるのが、病院の『地域連携室』(病院によって名称は異なる)の社会福祉士です。
社会福祉士は、退院後の生活の相談や医療について相談に乗ってくれます。
(1)自宅に帰る
●筋力の低下がない高齢者
●日常生活が送られる高齢者
●要介護状態にない高齢者
などの場合、大きな病院から退院したあと、直接自宅に戻ってもいいでしょう。
もし、要支援や軽度要介護状態になるのであれば、在宅介護(介護保険サービスの利用)を行って生活を営むことも視野に入れることも出来ます。
介護保険サービスの利用を前提とするのであれば、病院でケアマネジャーを紹介してもらうこともできます。
(2)リハビリ病院(回復期病院)に入院する
リハビリ病院へ入院できる対象の人は、厚生労働省が疾患などの条件や入院期間を定めており、専門の医師による判断が必要となります。
対象疾患ごとに入院期間は定められています。
例えば・・・
◎脳血管疾患や頸髄損傷など・・・最大入院期間180日
◎大腿骨や骨盤などの骨折・・・最大入院期間90日
それ以外はこちらをご確認下さい↓
回復期のリハビリを受けるには、治療・手術を受けた急性期病院から回復期リハビリ病院に診療情報提供書を送ってもらい、入院の可否が決定します。
リハビリ病院での入院を希望する場合には、入院先(大きな病院)の社会福祉士などに相談するといいでしょう。
『命を救う』ことを最大の目標としている急性期病院での入院は、症状が安定するまでとなります。
しかし、回復期病院での入院期間は最大180日(疾患により異なる)と、長期入院が可能です。
(3)老人保健施設に入所する
施設に入所するのも一つの方法です。
ただし、大きな病院(急性期病院)を退院してすぐに、特別養護老人ホームへの入所は難しい場合があります。
それは、病状が安定していな可能性が高く、医療に重点を置いているのではなく、生活の場として重点を置いているからです。
こんなときに頼りになるのが、老人保健施設(老健)です。
老健は、病院と家庭の中間的な位置づけになり、家庭に戻ることに不安を抱えている人たち(要介護状態)が利用し、リハビリを受けることができます。
リハビリを行って、自信が付き、住環境も整えることができれば、老健から自宅に帰る人もいます。
まとめ
大きな総合病院のことを、急性期病院と表現し、即日手術・治療が必要な人が前医の紹介などを受けて入院する運びになります。
急性期病院では、手術等が成功してある程度予後が安定すると、次の病院(慢性期病院)や施設に移転するように勧められるケースが多くあるのが現状です。
よって、急性期病院では短いと一週間程度で退院を促されることが多いのです。
すぐに、退院しても行き場所がないと困る場合には、地域連携室(病院によって名称は変わる)の社会福祉士などに相談し、退院後の行き先探しなどをしてもらいましょう。