認知症

認知症への新しいアプローチ『パーソナルソング・メソッド』とは?

認知症への新しいアプローチの方法である『パーソナルソング・メソッド』について解説します。

『パーソナルソング・メソッド』は、音楽療法の一種で、認知症患者の症状緩和や心理的な支援に役立つ可能性があるとされている支援方法です。

子供のころの音楽を聴いたり、映像を見たりすることは誰でも懐かしく感じるものですが、認知症患者の方を対象にしても、『パーソナルソング・メソッド』をきっかけに記憶を喚起する効果があると言われています。

まだまだ耳慣れない『パーソナルソング・メソッド』とはどのようなものなのか、わかりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

そもそもパーソナルソングとは?

『パーソナルソング』とは、直訳すると『個人的な歌』という意味です。

パーソナルソング・メソッドで取り上げられるパーソナルソングにはどのようなものが該当するのでしょうか?

年齢や時代に合った曲

対象者が成長した時代の曲・若い頃に好んで聴いていた曲は、特に効果的なパーソナルソングです。

対象者が『懐かしい』と感じる音楽は、記憶や感情にアクセスしやすくなるケースが見られます。

個人の特別な関係や思い出に関連する曲

対象者が特別な思い出や関係を持っている人や場所に関連する曲は、感情や記憶を喚起することがしやすくなります。

例をあげると、自身の結婚式の曲や子供たちとの思い出の曲などが考えられるでしょう。

昔ファンだった歌手の歌なども該当します。

楽器の演奏や歌唱スタイルによる個別の好み

対象者が特定の楽器の音や歌唱スタイルに強く共感するケースがあります。

ピアノやトランペットの音色・ジャズの歌唱スタイルなど、個々の感性に合わせた演奏や歌唱は非常に有効です。

パーソナルソング・メソッドとは?

パーソナルソング・メソッド(Personalized Music Intervention)とは、認知症患者や高齢者に対して音楽を活用するアプローチの方法です。

パーソナルソング・メソッドは認知症予防法の一つである『回想法』に、懐かしい音楽や映像を取り入れたこれまでにないスタイルの回想法といわれています。

パーソナルソング・メソッドの概要をご紹介しましょう。

評価と情報収集

パーソナルソング・メソッドを始める際には、対象者の評価と情報収集が重要です。

対象者の個人情報・好み・興味・趣味・過去の経験などを理解するために、対象者自身や家族、介護者とのコミュニケーションを行います。

対象者の評価や情報収集をしっかりと行うことで、適切な音楽の選択やアプローチができるでしょう。

音楽の選択

評価と情報収集を元に、対象者にとって意味のある音楽を選びます。

対象者が好きな音楽・昔愛聴していた曲・特別な思い出がある曲など、対象者にとって特別な意味を持つ音楽を優先的に選択することがポイントです。

音楽療法の実践

選んだ音楽を使用して、音楽療法のセッションを行います。

再生される音楽が対象者の記憶や感情にアクセスし、喜び・懐かしさ・安心感などを引き出すことが目的です。

音楽を通じて、対象者とのコミュニケーションを促進するために、歌ったり、楽器を演奏したりすることがあります。

パーソナルソング・メソッドの特徴

パーソナルソング・メソッドはまだ新しいアプローチの方法のため、よく知らないという方も少なくありません。

パーソナルソング・メソッドにはどのような特徴があるのか、3つのポイントをご紹介しましょう。

個別性とカスタマイズ性

パーソナルソング・メソッドは、対象者一人ひとりに合わせて個別のアプローチを行います。

対象者の好みやバックグラウンド、個々の特別な関係や思い出に基づいて、特定の曲や音楽を選ぶことが重要なポイントです。

個別性とカスタマイズ性が、対象者の認知機能や情緒に対してより効果的な刺激を与えることができるといわれています。

記憶と感情へのアクセス

音楽は、脳の記憶と感情の領域に直接的なアクセスを提供します。

パーソナルソング・メソッドでは、対象者が関連する記憶や感情を呼び覚まし、喜びや懐かしさ、安心感などを引き出すことを目指すことが目的です。

対象者のコミュニケーション能力や情緒の安定化、生活の質(QOL)の向上が期待されます。

認知機能の刺激と維持

音楽は、認知機能の刺激と維持にも効果があります。

パーソナルソング・メソッドでは、リズム・メロディ・歌詞などの要素を通じて、認知機能の活性化や脳の活性化を促すことが可能です。

音楽に合わせて歌ったり、楽器を演奏したりすることで、運動機能や協調性も刺激されます。

パーソナルソング・メソッドを行う際のポイント

個別性の尊重

パーソナルソング・メソッドでは、対象者一人ひとりの個別性を尊重します。

対象者の好み・興味・人生の経験などに基づいて、特定の曲や音楽を選ぶのが特徴。

対象者にとって特別な意味を持つ曲や、心に響く音楽を見つけることが重要です。

コミュニケーションの促進

音楽は、対象者とのコミュニケーションを促進する有効なツールです。

特定の曲や音楽を通じて、言葉に頼らないコミュニケーションが可能となります。

対象者との絆を深めるために、音楽を介して感情の表現や相互作用を促すことができるため、しっかりと観察することがポイントです。

快適さとリラクゼーション

音楽は快適さやリラクゼーションの促進にも役立ちます。

心地よいメロディやリズムは、対象者の緊張や不安を軽減し、リラックスした状態に導きます。

リラクゼーション効果を高めるために、環境や音響の配慮も重要です。

パーソナルソング・メソッドの注意点

近年注目されているパーソナルソング・メソッド…行う際には注意点があります。

気を付けるべきポイントを4つご紹介しますので、パーソナルソング・メソッドを行う際にはぜひ心がけるようにしてください。

反応の観察とコミュニケーション

パーソナルソング・メソッドは、対象者とのコミュニケーションを促進するための手段でもあります。

音楽を通じて、言葉に頼らないコミュニケーションや感情の表現を支援しましょう。

パーソナルソングを聞いたときの対象者の反応もしっかりと観察してください。

個別のニーズの把握

対象者の個別のニーズや好みに基づいて、適切な音楽を選ぶことが重要です。

対象者の育ってきた背景や音楽の好みを尊重し、対象者にとって意味のある曲を選ぶようにしましょう。

プライバシーと尊厳の保護

対象者のプライバシーと尊厳を尊重し、音楽セッション中に対象者の個人情報を適切に管理することも重要なポイントです。

対象者との信頼関係を築くために、個人情報の機密性は必ず守ってください。

専門家との協力

音楽療法士など、専門家との協力は非常に重要です。

音楽療法士は適切なプログラムの設計やアセスメントを行うことができます。

できる限り専門知識と指導の下で、パーソナルソング・メソッドを実践しましょう。

まとめ

筆者が介護施設に勤務している際、レクリエーションで一番好評だったのはアコーディオンで弾く童謡のプログラムでした。

特に『ふるさと』や『赤とんぼ』などは、普段表情をあまり見せてくれない利用者の方も口ずさんでくれたり、中には何かを思い出して涙を流しながら聞いてくれていたりする方もいました。

音楽には人を動かす力があります。

パーソナルソング・メソッドは近年認知され始めた新しいアプローチの方法です。

一人ひとりに合った思い出の音楽で、少しでもQOLの向上や認知機能の改善が行われるのであれば、非常に素晴らしい方法といえます。

音楽を流すだけではなく、コミュニケーションをさらに深めることができるのもメリットです。

できる限り専門家の指示を受けながら、パーソナルソング・メソッドに取り組んでみてはいかがでしょうか。

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