介護施設ではプロの介護や看護スタッフが勤務しているのは勿論ですが、どうしても事故が起こってしまうこともあります。
では、その事故とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?そしてその事故を防ぐために施設側はどのような取り組みをしているのか解説致します。
また、介護を依頼する家族の立場としてどのような心得が必要なのかもお伝えします。
介護事故の種類
高齢者介護の現場において、具体的にどのような事故が発生しやすいでしょうか?
転倒事故
例:歩行中に電気コードを引っかけて転倒する。車いすから立ち上がろうとして転倒する。
転落事故
例:車いすからバランスを崩してそのまま転落したり、ずり落ちる。ベッド上で動いて床に転落してしまう。
誤嚥・誤飲
例:飲食物が食道でなく器官の方に入る。(窒息)自分の唾液等で誤飲する。
介護ミスによる事故
例:骨がもろい高齢者のオムツ交換をする際の骨折。高齢者の弱い皮膚を傷つける。
その他の事故
誤薬
入浴時の火傷
入浴時に溺れる
食べ物でないものを口にする(異食行為)
無断外出
介護事故に対して施設はどう対応しているか
事故やトラブルは発生させないために万全を尽くすのが大前提です。しかし、人間同士の関係の中で発生するために、防ぐことはなかなか困難であるというのが、介護現場における事故などの特徴でしょう。
施設として、仮に何かしら事故やトラブルが発生した場合、以下の取り組みを行っています。
①事故から生じる被害を最小限に抑えることを行う
②同じケースにおける事故を再発させないように取り組む
③発生後に利用者へのサービスの質が低下しないように取り組む
以上、主に3点があり、大切なことは『最悪の事態を防ぐこと』
なのです。
そして、通常はインシデント報告書やアクシデント報告書を書いて、施設全体で対応策を検討するようにしています。
転倒・転落事故のケース
介護現場におけるあらゆる事故の中で、8割以上を占めるのは、利用者が歩行中に『転倒』したり、ベッドや車椅子などから『転落』するという事故なのです。
介護現場のスタッフとしては『事故』=『転倒・転落』の印象が強いでしょう。逆に言えば、転倒・転落の事故減少させることができれば、事故自体を一気に減らすことができるのです。しかし、なかなか上手くいかないことが現状なのです。
それでは転倒・転落事故のケースを個別に解説していきます。
ケース① 長時間の座位からの転落
高齢者の身体は変形していることが多く、身体を支える十分な筋力も低下しています。そのため車椅子でも通常の椅子でも座位を保てなくなり、ずり落ちたり、身体全体が横に傾いてそのまま転倒することがあります。
その対応策として、長時間の座位を辞めてベッド上での時間を多くしたりします。しかし、それでは寝たきりを誘発する原因にもなりますので、個々に合わせた車いすを選定したり、クッションで適切な座位が保てるように工夫します(シーティング)。
筋力低下により転倒・転落のリスクが高い場合にはリハビリも行います。例えば、特養では理学療法士や作業療法士の指導の元、介護スタッフが体幹の筋力を維持できるように取り組みます。
ケース② 歩行中バランスを崩して転倒
歩行といっても、様々な道具を使い歩行するケースがあります。例えば、杖、歩行器、歩行車、シルバーカーなどがあります。道具を使って歩行ができるから、必ずしも安全であるとは限らず、電気コードに足を引っかけて転倒したり、歩行器から手が離れてそのまま転倒することも考えられます。
介護施設では道具を使っているからといって、見守りもせずそのまま自由に歩いて頂くということは安全上あまりしません。筋力の程度と本人の状況を観察した場合には、ある程度自由に廊下などを歩いてもらうことはあります。
自由に歩けるという方で、認知症があれば介護スタッフの対応が一気に難しくなります。例えば行ってはいけない場所に行くこともあれば、スタッフが気が付かないうちに一人でトイレに行っていたということもあります。そのような中で転倒・転落の事故が起きてしまうのです。
ケース③ ベッドから床への転落
自力で左右に体位変換できる方に多い事故です。ベッドから床に落ちるリスクがあるのならサイドレール(ベッド柵)をすればいいと考える人もいらっしゃるかもしれませんが、介護施設では身体拘束に該当するため、直接生命に関連する以外は取り付けることができません。
介護施設での対策として、床に安全マットを敷いて万が一に備えたり、ベッド自体を低くして床とベッドの高低差をなくすような工夫をしています。それでも頻繁に転倒するリスクが高い人にはセンサーマットというものを使用します。これはベッドから背中が離れた瞬間に機械が感知し、ブザーでスタッフに教えてくれるのです。
実はこのセンサーマットを利用しても完璧に転落を防ぐことができません。センサーが感知してからスタッフが駆けつけるまでの間に床に転倒する可能性があるからです。
ケース④ プライベート空間での転倒・転落
プライベート空間といえば、居室とトイレが代表的です。要介護5であれば、介護度が高く寝たきりであったり、多くのことに介護を要するのでプライベート空間での転倒・転落はあまりないでしょう。
しかし要介護1や2など軽度な方であれば、どうしても介護スタッフが関われない部分があるのです。例えば「トイレに行くときはナースコールを鳴らして下さいね」と伝えていても、自分で行けると思い込んで歩行中に転倒することもあります。また車いすでトイレに入っていれば、スタッフがずっとトイレの中に一緒に過ごすこともできません。同じように「終わったらナースコールで教えて下さいね」と言っても、自分で後始末をしようとして転倒することもあります。
利用者の心理としては「これぐらいでスタッフを呼ぶのは申し訳ない」「自分のことぐらい自分でできる」「なるべく人の世話になりたくない」というようなことがあるようです。
軽度な利用者のプライベート空間での転倒・転落はなかなか防止するのが難しいのが現状です。
施設に依頼する前の家族の心得
介護事故は交通事故と同じで100%発生しないと考えるのは辞めておきましょう。
勿論、施設は事故がないように努力しますが、これまで解説したように、不可抗力的な事故が発生することも事実なのです。
介護施設に依頼する場合、家族の心得について具体的に解説します。
本人の情報は適切に伝える
例えば『自宅ではベッドでなく布団で寝ている』ということも介護施設からすれば貴重な情報です。介護スタッフは『足腰が弱い介護を要する高齢者があえて布団なのだろうか?』『施設はベッドを利用することになるが、環境の変化に混乱しないだろうか?』などを考えていきます。
もし布団で寝ているという情報があれば、事前の情報収集の際にさらに詳しく情報を得るために質問をされるでしょう。そして結果的に事故防止の対策を取ってくれることになります。
介護施設に非があれば保険が適用されることも
例えばお茶を床にこぼしたまま放置しており、そこを利用者が歩いた際に転倒した。あるいはホールでスタッフの見守りがあったにも関わらず、車いすからずり落ちたなどの事故は、施設が加入している保険が適用される可能性があります。
介護施設は保険に加入するように義務付けられていますので、治療費などは保険で賄えるようになっています。通常は、入所前の契約・オリエンテーションの際に説明されます。
スタッフとのコミュニケーションも大切
普段からスタッフとコミュニケーションをすることも大切です。コミュケーションをする中で、お互いの普段は知ることのできない情報を収集することができます。
例えばスタッフから「最近、車いすからベッドに移乗するとき脚がなかなか立たないことがあります…下肢筋力低下で転倒のリスクが高くなっています」と教えてくれることもあるでしょう。
急に連絡が入って「転倒して頭部を打ちました。一刻を争うのですぐに来てください。」と言われると、心の準備ができていなくてパニックになることもあるかもしれません。
普段から情報をキャッチしておくことで、本人の今の状態を把握ができ、心の準備もできるでしょう。