高齢者宅のゴミ屋敷問題は、社会的に解決しなければいけない課題の一つになっています。
健康被害はもちろん、近隣とのトラブルや放火などのリスクをはらんでいるゴミ屋敷化は、決して他人事ではありません。
今回の事例は、実家に住む一人暮らしの母親に異変を感じ、ゴミ屋敷化を解決したケースです。
対象者であるAさんの娘・Bさんからお話を伺いましたので、ご紹介しましょう。
Aさんのプロフィール
事例を紹介するにあたり、対象者であるAさんのプロフィールをご紹介します。
【Aさんのプロフィール】
- 70代女性
- 3年前に夫が急逝・その後は一人暮らし
- 認知症はないもののガンの治療経験あり
- 膝に痛みがあり長時間の歩行は困難
- とてもきれい好きで整理整頓が得意
娘のBさんによるとAさんはとても気丈な人で、夫を亡くした時も、Aさん自身がガンの治療をした時も、常に前向きでしっかりした対応のできる人だったといいます。
父親が急逝した際、BさんはAさんに同居を提案しますが、「一人の方が気が楽で良いわ」と断られていたという経緯もありました。
一人暮らしが原因?あっという間のゴミ屋敷化
きれい好きで几帳面だったAさんに異変が起きたのは、Aさんの夫が急逝して1年が経った頃でした。
娘のBさんに異変に気付いたときの様子を伺いました。
年1回の帰省
-頻繁に顔を合わせていた?
Bさん「いえ…当時は子ども達の進学や部活動などのタイミングと重なってしまったので、家族での帰省は年に1回くらいでした。電話で話すことはありましたが、電話口の母はしっかりとした対応をしていたので、特に心配もしていなかったというのが正直なところです。」
-Aさんは几帳面な人?
Bさん「はい。私も子どもの頃はよく掃除を手伝わされていました(笑)きちんとしていないと気が済まない人で、家の中は常に整理整頓されている状態でした。料理も大好きで、多少膝の不調はあったのですが、一人で生活することには何の不安も感じていなかったんです。」
異変
-Aさんの異変を感じたのはいつ頃から?
Bさん「父が亡くなって落ち込んでいるなぁとは思っていました。父がいる頃は電話でも本当にはつらつとした声で、孫のお祝い事などもしっかりと覚えていて母から連絡をくれるくらいだったんです。でも一人暮らしになってから、母から連絡が来ることが少なくなって、こちらから連絡しても何となく元気がない感じがしたので、私だけで実家に様子を見に行くことにしました。」
-その時に変化が明らかになった?
Bさん「もう、ビックリしました!だって玄関を開けたら、段ボールやらゴミ袋やらが山積みになっていたんです。庭も雑草がびっしりの状態で、縁側から声をかけると、母の声で「そこの窓は開かないから!」って言われたんです。玄関から無理やり入ると、ゴミだらけの居間に母が座っていたんですが、お風呂に入っていないのか、髪はボサボサだし、母の座っている周辺以外には足の踏み場がないんです…。あまりの状況に頭が追い付きませんでした。」
かかりつけ医への受診
-Aさんはゴミを片付けられないことを自覚できていた?
Bさん「はい、たぶん。「散らかっててゴメンね」と言っていたので。でも「お母さん、大丈夫?」って声をかけたらニコッと笑うだけで明らかに様子がおかしかったんです。とりあえず母の健康状態が気になったので、かかりつけの医師に診察してもらうことにしました。」
-かかりつけの先生は何と?
Bさん「膝の状態が良くないことは先生も知っていたんですが、状況を説明すると「おそらくうつ病を発症しているのではないか」と言われました。紹介状を書いてもらって、精神科を受診しました。診断はやはりうつ病で、栄養失調もあったので、急遽入院して治療をすることになったんです。」
ゴミ屋敷の解決・難航した2年間の軌跡
入院を余儀なくされたAさん…しかしBさんは大きな問題に直面しました。
実家のゴミ屋敷化を何とか解決しなければいけないということと、Aさんのこれからのことです。
ここからBさんの闘いが始まりました。
同居?片付け?
-Aさんの入院期間は?すぐに退院できた?
Bさん「入院自体は10日間ほどでした。栄養失調と膝の炎症を抑える治療をしながら、うつ病に関してはお薬でこれからも継続的に治療をするということでした。とりあえず、母が退院して来るまでの間に目に付くゴミは処分しておこうと思って、毎日のように実家に行きました。」
-実家の片付けと自分の家の生活は大変だったのでは?
Bさん「私は一人っ子なので、他に頼れる人がいませんでした。自分の家の方は夫や子ども達に協力してもらって、親戚も高齢者ばかりなので、本当に大変でした。とりあえず動線だけでも確保しなきゃと思って、玄関や廊下、台所、お風呂場などのゴミ出しが精いっぱいでした。」
-Aさんとはどんな話をしたのか?
Bさん「正直言って、退院後の母は気力も体力もなく、何を言っても「わからない」ばっかりだったんです。その上、片付けようとすると「捨てるなんてもったいない」とか「そのままにしておいて!」と拒否するような態度だったので、埒が明かない状態でした。もう1人じゃ無理だから一緒に住もうと言っても、大丈夫としか言わないし…。勝手にやろうとすると怒るので、困り果てていました。」
近隣との関係
-ご近所には頼れる人はいなかった?
Bさん「昔は仲の良いお友達もいたんですが、皆さん高齢で亡くなった方も多かったんです。私たち世代はほとんどの人が就職と同時に家を出てしまうので、どこの家もお年寄りばっかり…といった感じ。昔ほど交流がなく、個々で生活している感じが強くなっていました。」
-他の家に来ている介護関係者などはいない?
Bさん「たぶん家に入らない限り、ゴミ屋敷になっていることがわからないので、外から見ているだけでは異変に気付かないと思います。庭も雑草がすごかったけど、どの家も同じような感じだったので、特におかしいとは思わなかったのかもしれません。」
母親の抵抗
-Aさんのその後の様子は?
Bさん「うつ病はお薬の効果もあって、だいぶ良くなりました。でも家の片づけにはなぜか反対するんですよ。あんなに几帳面できれい好きだったのに、「片づけなくていい」とか「このままにしておいて」とか言うので、とにかくいろいろ話をしました。ゴミ屋敷の人と近所の人がトラブルになった話とか、ボヤを出してしまった話、ダニなどの怖さなんかも話しましたね。」
-Aさんは何て?
Bさん「話をしても理解しているかどうかわからなかったので、ネット上の写真などを見せました。母は、ダニに刺されてかゆくて眠れなかった人の話が一番響いたみたいです。アレルギーとか転んで骨折して歩けなくなるとか、具体的な例を話しましたね。一般論では太刀打ちできませんでした。でも少しずつ「嫌だね」とか「怖いね」という発言をし始めたので、母なりにリスクは感じていたんだと思います。」
最終結論
-片づけるまでにどのくらいの期間がかかった?
Bさん「結局2年近くかかりました。同居はしていなかったし、私も仕事の合間に来ている感じだったので。でもその後すぐに、母が玄関で転んで骨折して入院したんです。その時に不用品回収の業者さんにお願いして、いっぺんに片づけました。」
-Aさんの骨折の原因は?
Bさん「玄関に積み上げてあった段ボールが倒れてきて、バランスを崩した母が転んだんです。大腿骨の骨折だったので、病院の先生からは寝たきりになる可能性や認知症を発症する可能性もあると言われていました。長期の入院になるとも言われたので、万が一、在宅で介護をするにしても今のままの状態ではどうしようもないと思って、恨まれるのを覚悟で片付けをしたんです。」
ゴミ屋敷化を防ぐにはどんな解決策があったのか?
その後、Aさんは無事退院しましたが、やはり以前からの膝の痛みもあり、歩行が億劫に感じるようになってしまいました。
Bさんは介護申請を行い、ケアマネジャーと相談して、介護サービスを受けられるようにしたそうです。
-業者の費用は?
Bさん「不用品の処分、清掃、消毒など、すべて込みで40万円近くかかりました。(注:4DK・庭付き)でも不思議なことに、きれいになった家を見た母はとても喜んでいたんです。あんなに拒否していたのは何だったのかと思うほどでした。片付けを機に、1階の床を全てバリアフリーにして、母が階段を登らなくてもいいように生活スペースを1階に移動したんです。退院してきた母はとってもニコニコ笑って嬉しそうだったので、こんなことなら早くやればよかったと思いました。」
-他にも解決策はあった?
Bさん「手伝ってくれる家族や親族や友人が大勢いれば、みんなで片づけることもできたと思います。でも、あれだけのゴミの処分を素人がするのは大変過ぎますよね。もっとゴミが少なくて、汚れもひどくなければ他の方法もあったと思うんですが、うちの実家の場合は業者一択だったと思います。ただ母がずっと家にいる状態だったら、業者さんにお願いするのも難しかったかもしれません。」
-情報収集は行った?
Bさん「はい、いろいろ調べました。自治体のボランティアとかもあったんですが、どうしても条件が合わなかったんです。実際に業者さんでも、見積もりの段階で「これは難しい」って言うところもあったくらいなので。もう少し早めに対処できていたら、他の方法もできたんだと思います。」
-その後のAさんの様子は?
Bさん「最近は以前と比べるとだいぶ元に戻ってきました。家がきれいになったことが、母の中で何かが変わるスイッチになったのかなと思います。台所も以前はゴミ袋があちこちに落ちているような状態で、とても料理ができる状態ではなかったんですが、不要な物を捨ててきれいになったら、また料理をしようという意欲が出てきたみたいです。」
まとめ
Bさんは、高齢者の一人暮らしにはさまざまなリスクがあることを改めて感じさせられたそうです。
それでも「同居はしたくない」「一人で頑張りたい」というAさんの気持ちを大切にして、これからも見守り続けていきたいと話してくれました。
Bさんも最近は1週間に1回は顔を出すようにしているとか。
大きくなったお孫さんを連れて行くとAさんがとても喜ぶので、子連れプチ帰省をしているそうです。
今回の取材で感じたのは、ゴミ屋敷問題は誰にでも起こり得る事象であるということ。
もし自分の親が、実家がそうなったらどうするのか…
事前の情報収集は、できるだけ行っておくべきなのかもしれません。