事例集

【取材】親の死後に本当に困ったコト・終活の大切さを知った90日間

親はいつまでも元気でいるような気がする…

年齢を重ねていても、何となく自分の親に「終活して」とは言いにくいものです。

でも、必ずやってくる『その日』を迎えた後に、さまざまな後悔をしている人もいます。

この事例は、親の終活を全く意識していなかったAさんへ、親の死後に何に困ったのかを取材したものです。

「私と同じような後悔をして欲しくない」というAさんに、お話をお伺いしました。

はじめに

Aさんの事例をご紹介する前に、Aさんのプロフィールをご紹介しましょう。

Aさんのプロフィール

Aさんは、50代の女性。

20代後半で結婚したものの、子どもに恵まれなかったことが原因で離婚。

精神的に大きなダメージを受け、うつ病を患ってしまいました。

Aさんの状況を案じた母親が「実家へ戻っておいで」と声をかけ、Aさんは実家で母親と一緒に暮らし始めました。

Aさんの父親は、Aさんが幼い頃に病気で亡くなっていたので、母親と二人三脚で生活していたのです。

家族構成と関係性

Aさんは一人娘でした。

母親との関係は良好で、近所でも評判の仲良し母娘。

父親・母親ともに一人っ子だったため、頼れる親戚はなかったといいます。

母親のBさんは、Aさん曰く「元気の塊のような人」で、Aさんが幼い頃から病気らしい病気はしたことがなかったそうです。

母親の急逝

そんなBさんも、80代を迎える頃から、さまざまな病気に襲われます。

もっとも深刻だったのは、多発性骨髄腫というガンでした。

高齢ということもあり、病気の進行は遅く、治療の効果があったといいます。

しかし、Bさんはある日、心臓の病気で急逝してしまったのです。

本当に困ったコト①延命治療

まだまだ元気でいてほしいという願いもむなしく、母親を亡くしてしまったAさん。

Aさんが母親を亡くすまでの間に、本当に困ったコトとは何なのでしょうか?

母親の意思が不明

-延命治療は?

Aさん「母とは延命治療の話をきちんとしていなかったんです。ただ、他愛もない会話をしているときに、長く患って迷惑をかけたくないとは言っていました。それが延命治療を指しているのか、それともごく一般的なものなのかがわからなくて。」

-エンディングノートなどは?

Aさん「ありませんでした。とても元気な人だったので、私が病気になってしまってからは、私の分まで動いてくれていました。たぶん本人も、自分が思っていたよりもかなり早く亡くなってしまったんじゃないかと思います。だからエンディングノートなんて、思いもしなかったんじゃないでしょうか。」

時間がない

-病院で話はできた?

Aさん「いいえ。病院に運ばれてからは、意識が戻らなかったので。母が倒れて、救急車で運ばれて、病院についてすぐに治療に関する話をされました。私がパニックになってしまったせいか、どんどん話が進んでしまった印象があります。」

-短時間だったということ?

Aさん「はい。一刻を争う治療だったようで、最終的には私もきちんと理解できないまま医師の言う通りにお願いしました。ゆっくり考える時間もなかったし、とにかく短時間でいろいろなことを決断しなければいけない。それなのに母の希望がわからないから、余計に困ってしまったんです。

決断の苦しみ

-延命治療は断った?

Aさん「そうですね。これは母の意思ではないですが、今までの母を考えると、きっと何もできずにただベッドに寝ているだけというのは嫌だろうなと思って。ただ、決断した後に本当にこれで良かったのかと落ち込みました。」

-辛かったですね。

Aさん「おかしいかもしれないけど、何となく私が母の運命を決めてしまったように感じて、苦しかったです。母ときちんと話をしておけば良かったし、私が声をかけてエンディングノートを作ってもらっておけば良かったと後悔しました。

本当に困ったコト②葬儀

悲しむ間もなく葬儀の準備をしなければいけなかったAさん。

葬儀で困ったコトとはどんなことなのでしょうか?

お金がない!

-葬儀で困ったコトは?

Aさん「お恥ずかしい話、葬儀に出せるお金がなかったんです。私が働けなかった間に母は貯金を切り崩して面倒をみてくれていました。母は年金暮らしでしたし、父が遺してくれたお金も、とっくにありませんでした。お金に関しても母が管理していたので、途方にくれました。」

-葬儀はどうした?

Aさん「母と懇意にしていた知人の方が、私の病気のことを知っていて、声をかけてくれました。ある時払いで構わないから、といってお金を貸してくれたんです。お金のことも母とは話したことがなくて。きっと私が負い目に感じないように、平気なフリをしてくれていたんだと思います。」

誰を呼ぶ?

ー葬儀に関して思うことは?

Aさん「お金を貸してくれた人は、私も会ったことがある人だったんですが、その人以外に誰に知らせたら良いのかわかりませんでした。住所録のようなものもなく、唯一助けになったのが年賀状や暑中見舞いのハガキでした。それでも連絡をすると既に亡くなっていたり、具合が悪くて出席できないという方が多く、最終的には近所でお世話になった方が数名いらしただけでした。」

-親の交友関係はわからないかも…

Aさん「そうなんです。母が誰とどんなお付き合いをしてきたのかまでは知りませんでした。これも生前に母と誰を呼んで欲しいのかという話をしておけば良かったんです。亡くなって1年以上経ってから、何も知らずに連絡をしてくる方もいて、きっと知らせなければいけなかった人が他にもいるんだろうなと思いました。」

お墓はどうする?

-お墓は?

Aさん「父が亡くなったときに入ったお墓は、父の実家のお墓でした。でも、父も母も一人っ子で、私も一人っ子。母方のお墓も継承者がいなくなってしまって、このまま母を父のお墓に入れても、私に何かあったら無縁墓になってしまうと思ったんです。お墓のことも母とは何も話していませんでした。」

-これから考える?

Aさん「はい。母の遺骨はまだ家にあります。墓じまいを考えなくちゃいけないのかなと思って。樹木葬とか永代供養墓などを考えています。どちらにしても、お金がかかるので悩みの種ですね。こういうことも生前にきちんと話し合っておけば良かった。母がどう思っていたのかはわかりません。」

本当に困ったコト③遺品整理

Aさんは母親が亡くなった後、徐々に自分の生活を取り戻しますが、まだまだAさんを悩ませる問題は山積していたようです。

莫大な量の遺品

-遺品の整理は?

Aさん「何も手が付けられません。とにかくものすごい量の荷物なんです。父が亡くなる前から住んでいた家なので、長年そのままにしていた荷物とかが山ほどあるんです。遺品整理の業者さんにお願いすることも考えたんですが、見積りで50万円近い金額を提示されてしまったので、一旦保留にしてあります。」

-分別だけでも大変なのでは?

Aさん「そうなんです。リサイクルショップに持っていけば良いんじゃないかと知り合いに言われたんですが、我が家には車がないので、持っていくのは無理かなと思っています。買取に来てもらえるほど価値のあるものが眠っているわけでもないし。遺品の山を毎日眺めてしまいます。」

実家の維持

-この家にはそのまま住む?

Aさん「今のところは、そのまま住むしかありません。でも、ローンこそありませんが、維持していけるのか不安はあります。私も病気を抱えての生活なので。ちょうどこの間、固定資産税の納付書が届いたんですが、結構な金額だったので驚きました。」

-修繕の必要は?

Aさん「ありますね。雨漏りしている部屋もあるし、外壁もだいぶ傷んでいるし。母がメンテナンスをしていたのですが、どの業者にどのくらいの金額でお願いしていたのかもわかりません。本当にわからないことばかりで…後悔先に立たずですが、もっと生活に関する情報を共有しておくべきだったと思っています。」

まとめ

Aさんは「とにかくもっといろいろなことを話しておくべきだった。」と話してくれました。

確かに、親はいつまでも元気だと思いたいもの…『死』や『病気』に関する話はタブーだと思われがちです。

しかし、Aさんのように思わぬ形で親を亡くしてしまうこともあるため、家族や親子でいろいろな話を共有しておく必要があります。

終活は、自分自身の最期を考えるだけではなく、遺された人が後悔しないための活動です。

今回お話を伺ったAさんは、何度も「聞いておけば良かった」「話せば良かった」と言っていました。

親が子に伝えること、子が親の思いを知ることは、家族にとってとても重要なんだと気づかされた取材でした。

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