高齢者に限らず、個人の情報はとても厳重に管理される時代になりました。
例えば、介護保険施設に入所する前の『契約』の段階では、必ず個人情報を厳守しますという内容を書面をもってお約束します。
介護現場での個人情報は実際にどのように取り扱いがされているか、心配になる方もいるかもしれません。
今回は具体的にどのように厳重に個人情報が管理されており、もし使われるとしたらどのようなケースなのかを解説します。
個人情報とは
個人情報保護法の定義によると、「個人情報」とは生きている個人に関する情報で、そこに含まれる氏名や生年月日、住所、顔写真などによって特定の個人を識別できるもの、または個人識別符号が含まれるものを言います。
また、他の情報と簡単に紐づけることができて、それによって特定の個人を識別できるものも含まれます。
よって、以下のような事柄があります。
■特定の個人を識別できる情報(氏名、顔写真など)
■指紋や運転免許証番号などの個人識別符号
■お店の会員番号など氏名や住所などと紐づいている情報
例えば、
「田中」「山田」などの姓は、それだけでは個人を特定することはできません。
そこに名前や電話番号、住所などを合わせると個人を特定できるため個人情報となるのです。
また、メールアドレスはすべてが個人情報に該当するわけではありませんが、個人名+社名となっているなど、特定の個人を識別できる場合はメールアドレス単体で個人情報になるのです。
介護施設で注意!氏名がなくても個人情報になる
氏名そのものがなくても個人情報にあたる場合があります。
たとえば、防犯カメラなどで特定の個人を識別できるほどはっきりと顔が映っている動画・静止画や、特定の個人とわかる音声なども個人情報にあたります。
介護施設においては、防犯面や所在の確認の観点から、施設内にカメラを設置しているところもあるかもしれませんが、使い方によっては個人情報保護法に抵触することがあります。
また、個人情報とは少し外れますが、トイレや居室の個室内にカメラが設置してある場合には『プライバシー保護』の観点から不適切だと言えるでしょう。
介護施設での個人情報の取り扱い
病院や介護施設などでは、患者さんや利用者さんの個人情報以外に、キーパーソンなどの個人情報も把握することになりますので、通常一人の方に関連する人々の個人情報を保護する必要があります。
PCや電子カルテの取り扱い

最近は紙カルテに比べて電子カルテが普及してきました。
PCを開けるとすぐに電子カルテが表示されるのではなく、パスワードを入力しないと開けませんし、最近では誰が開けたまでが履歴として残ることもあります。
PCに関しては、USBメモリが廃止され、外部に持ち出せないようにして全ての情報はPCの中に保存するようにしています。
よって、職場の外の自宅等に仕事を持って帰って、作業ができるような仕組みは無いようになっています。
衣類は目立つ場所に記名しない
これは施設の考えや、家族の同意があれば行われるケースもあります。
散歩や外出等で施設の外に出かけた時、衣類の分かりやすい場所に名前が書かれていると、同時に顔を見ることによって個人が特定されることがあります。
しかしその一方で、個人を特定してもらいたいというケースもあります。
それは、施設外への無断外出です。(以前は徘徊と言われていました)
地域住民が、不穏な歩きに気付いたとき、目立つ位置に記名があれば、「どこの誰なのか」が分かるので、早期発見に繋がることもあります。
よって、家族の了解を得て、「氏名」「住所」「電話番号」を書かれた衣類を着用する場合もあります。
とはいえ、最近は個人情報をQRコードにして一目で分からないようにしていることもあります。

電話などによる問い合わせ

「親戚の〇〇さんがそちらのホームに入所したと聞きました。面会に行っていいでしょうか?」
「△△君の同級生の◇◇と言います。そちらの施設に入っていますか?」
など、手元の情報資料にない人達からの問い合わせがあることも珍しくありません。
施設としては、入所時に個人情報保護のお約束をしていますので、このような問い合わせでは原則、直接答えることはしません。
施設の対応としては、一旦電話を置きます。
そしてキーパーソンや契約者に電話等で確認して、このような問い合わせがあったことの事実を直接伝え、判断を仰ぐようにします。
なかには、電話連絡なしで急に来所され「〇〇さんに会いに来た」というケースもありますが、このような場合には施設職員は特に注意して対応するようにしています。
広報誌やホームページの画像・動画の対応

契約の際に「広報誌等に顔が写りますが構いませんか?」と尋ねるケースが多いです。
施設によっては、書面でのやり取りになることもあるかもしれません。
そこで、契約者から「可能です」と答えがあれば画像・動画のアップロード等を行います。
トラブルになることを事前に恐れて、最初から顔写真は使わないようにしているとこともありますので、気になる人は直接問い合わせてもいいでしょう。
個人情報を使うケース

原則、個人情報を守るというのが法律上のルールではありますが、特別な場合には個人情報を使わせて頂くこともあります。
それは以下の2点です。
①関係施設や医療機関との連携
例えば、老健への希望をされている人がいるとします。
いきなり施設まで来て、「今日からお願いします」と依頼を受けて入所になるのではありません。
事前に担当ケアマネジャーや在籍している病院、介護保険サービスを利用しているのなら各事業所から入所希望者の情報を頂かなければ、入所の可否を決められないのです。
逆に、老健を退所して特養への移動を決める時も、情報提供をしないといけませんので、個人情報を使わせて頂くことになります。
取り扱い行う主な個人情報は以下のようなものがあります。
■氏名
■家族構成
■既往歴や現病歴
■処方されてい薬
■生活の様子(移動手段・認知機能の度合い・日常生活の様子・支援が必要なことなど)
これらは、適切な介護・看護・機能訓練等を行う上でとても重要な情報になりますので、個人情報に触れることになります。
それらを知り得た職員には守秘義務が発生し、それを破ると法的に処罰されることになっています。
②行政や国民健康保険団体連合会(国保連)とのやりとり
介護保険サービスを提供した特養などの事業者は、原則9割(利用者の所得により8割または7割)を国保連に請求し、残りの1割~3割の費用を利用者へ請求します。
よって、どうしても個人情報の提示が必要になるということなのです。
行政に対しては、特に介護保険関係を担当する窓口との間で必要になります。
例えば、施設利用中の事故については自治体に届け出る義務がありますし、実地指導などでも個人情報に触れることになります。
『①』で先述した通り、こららのケースで個人情報に関わった関係職員にも守秘義務があります。
個人情報の不正利用の可能性は?
結論から言えば、不正利用の可能性は全くないとは言えません。・
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個人情報の不正利用問題は、介護保険制度に関わる事業所だけではありません。
個人情報保護法が施行されたということは、少数ではありますがそれを「手に入れたい」と考える人もいます。(勿論それは犯罪です)
そのようにならないためにも、介護施設では以下のような取り組みを行っています。
■PCのデータやソフトに入れた記録はパスワードがなければ利用できない
■PC設置の部屋は施錠をしている
■紙ベースの場合には棚に施錠している
■電話対応の際、個人情報を聞かれても「伝えない」を徹底している
■雇用した職員に対して、誓約書の記入をしてもらっている
介護施設における個人情報の落とし穴

このように、個人情報保護については多くの施設では慎重に対応しています。
しかし、どうしても施設職員がタッチできず、個人情報が洩れる場合があります。
特養で生活されている利用者がたまたま知り合いだった場合、家族から面会があった際に「〇〇町の△△さんはここの施設にいるよ」等の会話があったります。
これに関しては、施設職員は関与することができません。
施設に入所するということは、このようなことも『ある』ということを念頭に置いておくようにしましょう。

