2000年に施行された介護保険制度ですが、一般の方にとってその内容は難しく、老後や家族の介護が必要になって勉強を始める方も多いです。
多くの人が必要になる『介護』ですので、本来なら誰でも分かりやす制度であり、利用しやすいものでなければなりません・・・
しかし、実際はどうでしょうか?
とても内容は複雑であり、介護保険制度の専門家のケアマネジャーや、市区町村役場等の担当職員でさえ、完全に把握していないのが現実なのです。
これでは、一般の利用者の方にとって分かりにくいのは当然だと言えるでしょう。
今回は、なぜ介護保険制度はこれほどまでに難しいのかを解説します。
介護保険制度が難しい理由

国の社会保障制度の中では比較的歴史が浅く、落ち着いていないのが一番の理由になりますが、我が国の大きな社会問題にもなっている『少子高齢・超高齢社会』ということも背景にあります。
介護保険制度が施行されたのは2000年ですが、当初から日本の将来は『少子高齢・超高齢社会』となることは予想されていました。
しかし、この流は想像以上に早く、国が予想してスピードを超えてしまったです。
実際、令和3年版高齢化白書によると、令和2年10月1日現在の65歳以上人口は3,619万人で、総人口に占める割合は28.8%に上っています。
その一方で、総人口は年々減少していることから、今後も少子高齢化は進行の一途を辿り、令和47年には約2.6人に1人が65歳以上になると推測されています。
このような状況から、今のままでは財源が破綻してしまう可能性が高くなり、急な方向転換が行われているので、それに国民が追い付いていけていない状態なのです。
他にも、介護保険制度は様々な社会保障制度等の絡みがあり、より難しいと感じる原因になっているのです。
介護保険制度の財源

介護保険の3つの基本理念として
●自立支援
●利用者本位(利用者主体)
●社会保険方式
の3つがありますが、中でも最後の『社会保険方式』とは、保険に加入した人が支払う保険料を財源とし、条件を満たした人に対してその財源から給付を行う方法を指しています。
公的保険のなかには、社会保険方式のほかに税方式などがあります。
税方式とは、保険制度の財源を全額公費(税金)でまかなう方法のことです。
しかし介護保険は原則として社会保険方式が取られているため、被保険者は介護保険料を支払わなくてはなりません。
ただし前述の通り、社会保険方式であるものの、介護保険料だけでは維持できないというのが実状です。
介護保険の財源には公費(税金)も投入され、保険料と税金の組み合わせによって制度が運用されています。
要するに、介護保険制度を維持・存続させるためにはいつも『お金』の問題に直面し、改正の度に『お金』に対する変更が伴うので介護保険制度を難しくしているのです。
介護保険制度は医療との絡みがある

例えば、退院して介護保険サービスを利用するようになったときに、訪問介護やデイサービスを受けることを考える方もいらっしゃると思います。
勿論、退院後の通院は医療保険の適用になりますが、医療との関りはこれだけではないのです。
退院して歩行機能を高めたいから、訪問リハビリを希望するとします。
普通にケアマネジャーに訪問リハビリの希望を伝え、支給限度基準額内でおさまるようにしてくれたら、すぐにサービスが開始されそうなものですが、リハビリを行うと事の医師の指示書が必要になってきて、ここでも医療との絡みが必要となってくるのです。
また、認知症があるためグループホームを希望したとします。
家族が「うちの母親は認知症があるのでグループホームでお世話になりたいです」と伝えるだけでは、受付は受理してくれません。
医療的知見から医師が『認知症である』と診断書を用意してもらいそれを希望するグループホームに提出しないといけません。
『まるめ』が存在する施設がある

介護保険3施設として・・・
①特別養護老人ホーム
②介護老人保健施設
③介護医療院
がありますが、介護老人保健施設と介護医療院の二つについては、原則薬については施設の料金の中に含まれています。これを包括医療(まるめ)と言います。
介護老人保健施設と介護医療院には医師が常勤で勤務しており、その医師の処方で薬の処方や点滴の指示が行われますが、これらはすべて料金の中に含まれているのです。
そこで、ひとつの疑問が浮かんでくると思うと思います・・・
「じゃぁ、薬代が安いとなんか損した気分・・・」
「薬代が高くても本当に追加料金はないの?」
「後期高齢者医療保険等の保険証はどうなるの?」
では、ひとつづつ解説します。
薬代が安くても同じ料金なのか
結論から言えば、>同じ料金です。
安いからといって値下げがあるということは全くありません。
むしろ、少しでも薬代を安価にするために、先発品を後発品に変更したり、減薬して支障なければ積極的に検討しています。
薬代が高くても追加料金はないか
こちらも結論から言えば、薬代が高くても追加料金はありません。
しかし、すでに薬代が高額である状態で入所を申し込まれるのであれば、そもそも入所ができない可能性があります。
例えば、数万円もする薬を飲んいることが分かれば、赤字になるため理由を伝えられてお断りされることも考えられます。
※上記の赤文字については、施設によって考え方が違うので留意しましょう。
後期高齢者医療保険等の保険証について
保険証自体を介護老人保健施設や介護医療院で使用することはありません。
これらに関しては細かい取り決めがあるので、すべてお伝えすることはできませんので、大切なものだけ解説します。
例えば、歯科治療が必要になり歯科医を受診した(往診を受けた)であれば、保険証が適用され、この費用については本人が負担することになります。
また、介護老人保健施設の場合、MRI等の画像検査等はありませんので、必要になり医療機関を受診して検査するのであれば、そちらに関しても本人が負担することになります。
介護保険制度は障害者総合支援法と関係する

障害者総合支援法とは何か
障害者や障害のある子どもが、基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営めるようにする制度です。
この制度は必要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援やその他の支援を総合的に行います。
これによって、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的にしています。
対象になる障害の範囲は、身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)、政令で定める難病等により障害がある人で18歳以上となります。
原則介護保険が優先される
障害福祉サービスの中には、介護保険と重複するサービスがあります。
例えば訪問介護などがその場合です。
このようなケースにおいては、原則として介護保険の方が優先され、利用するようになるのです。
そのため、65歳以上の人、40~64歳で特定疾病に該当する人は、介護保険の認定申請が必要となります。
以下の①~⑦までのサービスは、先述した通り原則として介護保険が優先されます。
※その他の重複しないサービスは、介護保険の認定を受けた後も引き続き障害者の福祉施策で受けることができます。
①車いすや電動ベッド等の貸与、腰かけ便座・入浴補助用具等の購入
②ショートステイ(短期入所)
③ホームヘルプサービス(訪問介護)
④訪問入浴サービス
⑤施設への入所(特別養護老人ホーム等)
⑥グループホーム(認知症対応型共同生活介護)への入居
⑦居宅生活動作補助用具(住宅改修)
両方併用して利用できる場合もある

介護保険のサービスでは補えないような支援や介護が必要な場合は、障害福祉サービスと介護保険の併用が認められています。
また、65歳を過ぎた高齢者が、重度の要介護状態になった場合は、病気の種類、状態、要介護度などによって、重度訪問介護の適用が認められる場合もあります。
例えば・・・
① 支給量が介護保険サービスのみによって確保することができない場合
② 利用可能な介護保険サービス事業所又は施設が身近にない場合
③利用可能な介護保険サービス事業所又は施設に利用定員に空きがない場合
④介護保険法に基づく要介護認定等を受けた結果、介護保険サービスを利用できない場合(非該当の場合等)
介護保険制度は『介護』だけではない

介護保険制度という法令だからといっても、その内容は『介護』だけではないことは皆さんよくお分かりだと思います。
全く利用したことのない人なら、ケアマネジャーの役割でさえ分からず、何を誰に相談すれば良いかも悩む人が多くいます。
介護保険制度に携わる職種として・・・
〇介護福祉士
〇社会福祉士
〇理学療法士
〇管理栄養士
〇看護師
〇医師
など、少し考えただけでもこれだけあります。

例えば、一般の人で『理学療法士』と『作業療法士』の違いを言える人はほとんどいないと思います。
施設に入所となれば、環境が変わるためまた違う職種の人たちの中で支援を受けることになります。
まとめ
このように介護保険制度は様々な要因が重なり合って難しくなっています。
国で改正された内容は、保険者(自治体)まで知らされて各事業所まで情報が流れる仕組みになっています。
各事業所とはいっても、その種類は様々でとても専門性の高い事柄もあるため、一般の人は勿論のこと、サービスを提供する事業所も学びながら介護保険制度を理解しているのが現状なのです。

