介護のはじまり

在宅介護と仕事は両立できる?使える公的制度3つと活用ポイント

高齢化の進行に伴い、家族の介護を担いながら働く人は年々増えています。

介護は突然始まるケースも多く、仕事との両立に悩む人は少なくありません。

働きながら介護を続けることを想定した公的制度はすでに整備されていますが、制度の存在を知らないまま負担を抱え込んでしまうと、介護離職に追い込まれてしまうことも。

この記事では、在宅介護と仕事の両立が難しくなる理由を整理したうえで、働く介護者が利用できる代表的な公的制度と活用のポイントを解説します。

在宅介護と仕事の両立が難しくなる理由

家族の介護が始まると、日常生活の多くの場面で時間や精神的負担が発生します。

特に在宅介護の場合、介護者が直接対応する場面が多くなり、働き方とのバランスを取ることが難しくなることがあります。

まずは、在宅介護と仕事の両立が難しくなる主な理由を整理しておきましょう。

介護は突発対応が多く働き方と衝突しやすい

在宅介護の大きな特徴は予定通りに進まないことです。

体調の急変・転倒・通院の付き添いなど、突発的な対応が必要になることも珍しくありません。

急な受診や介護サービスの調整など、日中の時間を使わなければならない場面も多くなります。

こうした状況が続くと、勤務時間との調整が難しくなり、仕事に支障が出てしまう可能性があります。

特にフルタイム勤務の場合、柔軟な対応が取りづらいことが大きな課題です。

家族だけで抱え込むと負担が一気に増える

介護を始めたばかりの段階では、家族だけで対応しようと考える傾向があります。

介護には食事・排せつ・入浴などの日常生活支援だけでなく、通院付き添い・服薬管理・見守りなど多くの支援が含まれます。

これらをすべて家族が担うと、生活全体が介護中心になり、仕事との両立が困難になりやすい状況になります。

長期間にわたる介護では、家族だけで対応するのではなく制度やサービスを利用しながら負担を分散させることが重要です。

制度を知らないまま介護離職を選ぶケースが多い

仕事と介護の両立が難しくなったとき、退職を検討してしまう人がいます。

厚生労働省が公表した雇用動向調査(令和6年)では、年間約719.5万人にのぼる離職者のうち、家族の「介護や看護」を直接の理由として離職した人は約9.3万人と報告されています。

また介護・看護離職が最も多い世代は、男性は45歳〜49歳・女性は55歳〜59歳となっており、男女ともに職場の中核を担うベテラン層が、キャリアの重要な時期に家庭の問題に直面していることがわかります。

働く介護者を支援する制度は存在するものの、情報が十分に行き届いていないことが課題といえるでしょう。

両立のカギは公的制度を正しく知ること

仕事と介護を両立するためには、個人の努力だけに頼るのではなく、公的制度を活用することが重要です。

制度は働く介護者を支援する目的で整備されており、適切に利用することで負担を大きく軽減できます。

公的制度は働く介護者を前提に設計されている

介護に関する制度の中には就労を続けることを前提として設計されているものがあります。

特に介護休業制度介護休暇制度は育児・介護休業法に基づき、家族の介護が必要になった場合でも離職せずに対応できるように整備されています。

企業には制度を利用できる環境を整える義務があり、一定の条件を満たす労働者は利用する権利があります。

制度は組み合わせて使うことで効果が高まる

介護に関する制度は一つだけではなく、複数用意されています。

それぞれ役割が異なるため、状況に応じて組み合わせることが重要です。

例えば、介護が始まった直後は介護休業を利用して体制を整え、その後は介護休暇を活用するという方法があります。

さらに、介護休業給付金を利用すれば収入面の負担も軽減することが可能です。

知っているかどうかで選択肢が大きく変わる

制度の存在を知らなければ、そもそも利用を検討することができません。

介護は突然始まることが多いため、事前に情報を知っておくことが大切です。

制度の内容や利用条件を把握しておけば、状況が変わったときにも冷静に対応しやすくなるため、自身の所属する会社の制度を中心に情報収集を行っておきましょう。

仕事と介護の両立に使える公的制度① 介護休業制度

家族の介護が必要になったとき、一定期間仕事を休んで介護体制を整えるための制度が介護休業制度です。

介護休業制度の概要と取得条件

介護休業制度は、要介護状態にある家族を介護する労働者が取得できる休業制度です。

対象となる家族には、配偶者・父母・祖父母・子・兄弟姉妹などが含まれます。

労働者は申し出を行うことで休業を取得でき、企業は原則としてこれを拒否できません。

取得できる期間と分割利用の考え方

介護休業は対象家族1人につき通算93日まで取得できます。

この期間は3回まで分割して利用することが可能です。

例えば、介護が始まった直後に1回目の休業を取得し、その後状況が変わったときに2回目・3回目を利用するといった使い方ができます。

分割利用ができることで、長期介護にも対応しやすくなっている制度です。

利用時に注意したい職場との調整ポイント

制度を利用する際には事前に職場との調整を行うことが重要です。

業務の引き継ぎや休業期間の確認などを行うことで、職場の理解を得やすくなるでしょう。

また、介護の状況は変化する可能性があります。

休業期間中に介護サービスの利用や家族との役割分担を検討しておくと、復職後の負担を減らすことが可能になります。

仕事と介護の両立に使える公的制度② 介護休暇制度

介護休暇制度は日常的な介護対応に利用できる制度です。

短期間の休みを取得できるため、突発的な対応にも役立ちます。

介護休暇制度でできること

介護休暇制度では、家族の通院付き添いや介護手続きなどのために休暇を取得できます。

対象家族が1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日まで取得できます。

1日単位だけでなく、半日や時間単位で取得できる場合もあり、柔軟な使い方が可能な制度です。

有給休暇との違いと使い分け

有給休暇と介護休業制度の大きな違いは当日の申し出が可能かどうかと、法的な位置づけです。

有給休暇は理由を問わず取得でき、原則として給与が支払われます。

一方、介護休暇は介護という特定の目的のために付与されるもので、法律上は無給であっても違反とはなりません。

使い分けとしては、有給休暇を優先的に使用し、家計へのダメージを最小限に抑えるのが鉄則です。

一日単位で休む必要がある通院の付き添いや、急な体調不良による呼び出しには、まず給与が保障されている有給休暇を充てるのが合理的でしょう。

介護休暇は有給休暇を温存したいときや有給が底をついた際のセーフティネットとして位置づけることがおすすめです。

短時間・突発対応での活用シーン

介護休暇は、急な通院や介護サービスの面談など短時間の対応が必要な場面で役立ちます。

特に在宅介護では、予定外の対応が発生することが多いため、柔軟に取得できる制度は大きな助けになるでしょう。

日常的な介護対応に活用することで、仕事への影響を最小限に抑えることができます。

仕事と介護の両立に使える公的制度③ 介護休業給付金

介護休業中の経済的不安を解消するための制度が、雇用保険から支給される介護休業給付金です。

介護休業給付金の支給条件

介護休業給付金を受け取るためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

  • 雇用保険の被保険者であること:原則として、休業開始前の2年間に、みなし被保険者期間が12ヶ月以上あることが必要
  • 介護休業を取得していること::対象家族を介護するために休業していることが前提
  • 休業中に一定以上の賃金が支払われていないこと:会社から休業開始前の80%以上の賃金が支払われている場合は支給されない
  • 就業日数の制限:1ヶ月の支給対象期間において就業日数が10日以下(10日を超える場合は、就業時間が80時間以下)である必要がある

支給額の目安と生活への影響

支給額の計算式は、原則として休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%となります。

「3分の1も減ってしまうのか」と感じるかもしれませんが、この給付金には2つの大きなメリットがあります。

  • 非課税:所得税がかからない(次年度の住民税にも反映されない)
  • 社会保険料の負担:育児休業とは異なり、介護休業中は社会保険料の免除はないが、手取り額で換算すると、休業前の約8割程度の収入が確保されるケースが多くなる

経済的な裏付けがあることで、今は仕事のことを一旦置いて、介護の環境を整えることに集中しようという精神的な余裕が生まれるでしょう。

申請時につまずきやすいポイント

申請は原則として勤務先を経由してハローワークに行います。

ここで注意が必要なのは、支給のタイミングです。

介護休業給付金は休業の実績を確認してから支給されるため、実際に口座に振り込まれるのは休業開始から2ヶ月程度先になることが一般的です。

そのため、休業期間中の当座の生活費として、ある程度の貯蓄を準備しておく必要があります。

申請期限を過ぎると受給できなくなる可能性があるため、早めに準備しておくことが大切です。

公的制度を無理なく活用するためのポイント

制度はただ申請すれば良いというものではありません。

自分の生活にどのようにマッチングさせるのかが、ポイントになります。

制度利用前に整理しておきたい介護状況

介護の制度を利用する際は、現在の状況を整理する必要があります。

  • 身体状況の可視化:自分でできること・介助が必要なことをリストアップする
  • 認知機能の確認:記憶障害・判断力の低下・徘徊の有無などを整理する
  • インフラの確認:住宅改修(手すりの設置など)の必要性や近隣の介護サービスの空き状況を把握する
  • キーパーソンの決定:家族の中で誰が主導権を握り、誰がどの役割(金銭管理・身体介護・連絡係など)を担うかを明確にする

以上を整理した上で、ケアマネジャーにどのような介護サービスが必要なのかを相談すべきです。

職場に相談する際の伝え方

上司や同僚に介護の状況を伝える際、以下の3点を中心に伝えるとスムーズです。

  • 現状の客観的な報告
  • 利用する制度と期間
  • 業務への影響と対策

「迷惑をかけて申し訳ない」という謝罪ばかりではなく、制度を使って体制を整え、早く通常勤務に戻れるように努力するという前向きな姿勢を示すことで、周囲のサポートも得やすくなります。

制度終了後を見据えた働き方の調整

93日間の介護休業や年間の介護休暇を使い切った後に、本当の両立が始まります。

介護は数年、時には10年以上続くケースも少なくありません。

制度利用期間中に、以下の働き方の調整も視野に入れましょう。

  • 短時間勤務制度の活用
  • 所定外労働(残業)の制限
  • テレワークの交渉

会社側も、法改正により介護を理由とした不利益な取り扱い(解雇や降格など)は禁止されています。

自分一人で抱え込まず、人事部門や産業医、あるいは外部の相談窓口を積極的に活用してください。

まとめ

在宅介護と仕事の両立は決して簡単ではありません。

突発的な対応や長期化する介護によって、働き方との調整が難しくなることもあります。

しかし、介護休業制度・介護休暇制度・介護休業給付金などを活用すれば、仕事を続けながら介護体制を整えることが可能です。

重要なのは、制度の存在を知り、状況に応じ組み合わせて利用すること。

家族だけで抱え込まず、制度やサービスを活用しながら無理のない介護体制を整えていきましょう。