家族の介護が原因で仕事を辞めなければいけない…介護離職は誰にでも起こり得ることです。
それぞれの家庭には異なる事情があり、介護離職にもさまざまなケースがあります。
この記事では筆者の周囲で実際に起きた介護離職に関する事例をご紹介します。
介護離職について悩んでいる方の参考になれば幸いです。
1・介護離職を決断したAさんの事例
Aさんの家族状況を最初にご紹介します。
Aさん:50代女性・独身・3人姉妹の長女・母親と2人暮らし・介護施設に勤務
Aさんの母親:80代・70代でアルツハイマー型認知症を発症・意固地な性格・30代でご主人を亡くし、娘たちを育て上げた・既往症なし
認知症の母親の介護で疲弊
Aさんは筆者と同じ介護施設に勤務していた大先輩の女性。
明るく元気な人柄は入居者の人たちにも人気があり、先輩として非常に頼りがいのある素敵な人柄でした。
そのAさんに異変が表れたのは、同居するお母さんの認知症による徘徊が始まった頃と記憶しています。
- 毎晩徘徊してしまうため夜寝ることができない
- 被害妄想が強く暴言や暴力もある
- 介護のプロのはずなのにイライラしてしまうことがある
自分が介護の仕事をしているにも関わらず、認知症のケアがうまくできていないことに悩んでいる様子と、睡眠不足とストレスによる疲労が顕著に表れていました。
仕事との両立が困難に…
Aさんのお母さんの症状は日に日に悪化し、Aさん一人では介護が難しい状況になっていました。
介護施設には夜勤もあり、仕事は重労働です。
目に見える勢いでAさんの状況は悪くなり、仕事でミスをしてしまうことも増えていました。
見かねた上司が話し合いをしたところ、『介護職に就いているプライド』が邪魔をして、Aさんが頑なに外部のサービスを利用していないことがわかりました。
人付き合いが好きではない母親のために何とか在宅で介護をしたいという意思が強かったのです。
しかしAさんの状態は既に限界でした。
家族と話し合い介護離職へ
施設に所属するケアマネージャー・社会福祉士が話し合いの機会を設けることになりました。
Aさんだけではなく妹2人とそのご主人も話し合いに参加し、現状に驚いたそうです。
- Aさんは自分の状況もお母さんの状況も「大丈夫」と一切助けを求めていなかった
- 話し合いの最中、Aさんはいきなり泣き出したり大声を出したりと精神的にかなり不安定な状態だった
- お母さんは『家』にこだわりが強く施設入所やサービスの利用を全て拒否していた
いろいろな状況を介護のプロ達が判断し、話し合いの結果Aさんは介護離職することになりました。
経済的な支援は妹さんたちが行い、ケアマネージャーは長年一緒に働いた同僚の人が担当、サービスを適宜取り入れながら在宅介護を継続することになったのです。
2・介護離職ができないBさんの事例
次にご紹介するのは、介護離職をしたくてもできなかったBさんの事例です。
Bさん:40代女性・夫と子供2人の4人家族・一人娘・事務職の正社員として勤務・生真面目な性格
Bさんの母親:70代・50代で癌と肺気腫を発症・2ヶ月に1回ほどの割合で入院レベルの発作を起こす・ひとり暮らし
仕事を辞めることができない事情
Bさんはご主人と高校生・中学生の子供さんを持つ40代女性です。
生活費やお子さんの教育費、本人曰く「ちょっと無理をして買った」一戸建ての住宅ローンのため、共働きで頑張らないといけないという状況でした。
お母さんとの関係は良好で、近所に住んでいたことからお父さんが亡くなった後は頻繁に行き来をし、お母さんの癌や肺気腫がわかったときから、献身的に介護を行ってきました。
しかし年齢を重ねたお母さんが、徐々に体調が悪くなり、肺気腫の影響で思うように体を動かすことができなくなってきたのです。
Bさんは「娘が親の介護をするのは当たり前」「自分の親のことで弱音を吐いてはいけない」と自分に言い聞かせ、経済的に厳しい状況もあり、仕事と介護の両立を目指してしまいした。
単身介護でうつ状態に
Bさんの様子が変だと感じたのは、仕事中のことでした。
真面目で仕事のできるBさんがミスをして上司に怒られていたのです。
その後もミスが続いたり、当日急な欠勤をしたりと今までのBさんにはあり得なかったことが続くようになりました。
そんなとき、何かおかしいと感じていた仲の良い同僚がBさんの家を訪ね、話を聞くことにしたのです。
同僚は家を訪ねた際、Bさんの様子を見てすぐに異変に気付いたといいます。
- 昼間なのに雨戸を閉めて真っ暗な部屋で座っていた
- 顔が無表情
- 最初はインターホンで追い返されそうになった(無理に上がり込んだ状態)
- ご主人は仕事で帰りが遅く、子供たちも部活やアルバイトで家族が揃うことが少ないので一人のことが多かった
- お母さんに認知症のような症状が出てきたが検査をしてくれないと悩んでいた
Bさんは単身介護のストレスと、身体的な疲労(睡眠不足など)が原因で、軽いうつ状態になっていたのです。
介護サービスとの併用で仕事との両立を実現
すぐに家族会議が開かれ、Bさんのお母さんの介護について話し合いがもたれました。
経済的にBさんが仕事を辞めるわけにはいかないので、Bさんの負担を減らしながら仕事と介護を両立できる状況を作ることになったのです。
- デイサービス・ショートステイなどをうまく活用する
- 介護休暇等の制度を利用する
- 家族で協力して家事の分担を行う
今まで一人で抱え込んでいたBさんも、周囲からの協力や公的サービスを利用することによって、自身の負担を減らすことができるようになりました。
Bさんは介護離職をすることなく、現在も仕事と介護の両立を成功させています。
3・介護離職のメリット・デメリット
介護のために仕事を辞めなくてはいけない【介護離職】には、メリットとデメリットが存在します。
2つの事例から読み取れるポイントについて見ていきましょう。
メリット①身体的な負担が軽減する
介護離職することの大きなメリットは身体的な負担が軽減することです。
仕事を辞めることにより、介護や家事に専念できる時間や体を休める時間が確保できるため、両立しているときよりも負担が少なくなるといえます。
メリット②介護費用を抑えることができる
在宅で介護をすることで、施設入所やサービス利用にかかる費用を抑えることが可能です。
要介護のレベルに合わせたサービスの種類や頻度をを選択できるため介護全体の費用の軽減につながります。
デメリット①収入がなくなる
介護離職最大のデメリットは介護者の収入がなくなることです。
Bさんの事例のように、介護者の収入が不可欠の場合は簡単に介護離職をすることができないといえるでしょう。
デメリット②再就職が難しくなる
介護離職をする年齢によっては再就職が難しくなるデメリットも存在します。
職種やキャリアなどにもよりますが、雇用形態の変更などにつながってしまう可能性も否めません。
4・まとめ
介護離職については、各家庭の状況や介護状態などによってさまざまな意見があります。
今回紹介した事例は一部分にすぎません。
自分が身内の介護に直面した時、どのような方法が一番良いのかを考えるのであれば、必ず専門家に相談することをおすすめします。
事態が深刻化する前に、最善の方法を見つけることができれば、二次的な不幸を生み出すことはありません。
それぞれの状況に合った最適な介護を見つけるためには一人で抱え込まず、自治体の相談窓口などを積極的に利用しましょう。