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法定後見制度を解説!いざというときに備えよう

「親が認知症で預金が引き出せない」
「親の判断能力が下がってしまい、悪徳商法や詐欺などの被害が心配」
「施設入所したいのに、親が自分で手続きができずに困る」

親が高齢だと、認知症や脳の病気により普段の生活で心配がでてきますよね。
とくに遠方で暮らしているならば、親の変化を感じとりにくい環境です。

しかしそんなときに有効なのが、成年後見制度のうちのひとつである『法定後見制度』

今回は、法定後見制度がどのような制度なのか、メリット・デメリット、具体的な利用方法も解説します。
この記事を参考にしていただければ、いざというときに負担が少なくなりますよ。

法定後見制度とは?

法定後見制度は、成年後見制度の種類のひとつです。
介護保険制度とともに2000年4月からスタートしました。

認知症や精神の疾患などにより判断能力が不十分な人を、家庭裁判所から選ばれた人(法定後見人)によって、法律的に保護・支援するのが目的です。

本人の住民票の管轄である家庭裁判所に申立てて、審査などを経て制度を利用できます。

自己判断が難しくても安心安全に暮らしてもらう目的の制度

判断能力の低下で自分の意思表示が難しくなると『スーパーで野菜を買う』『家の電気を使うために電力供給を契約する』『預金を引き出す』といった、意識せずにおこなっている法的な決定(法律行為)が、自分ひとりでは困難となります。

日常生活以外でも、遺産や相続、不動産の売買契約など、本人の手続きが必要な場面で正しい選択ができません。
そのため、家族も不自由な環境に陥る可能性があります。

十分な判断ができない状態は、高齢者を狙った悪徳商法や詐欺被害も心配ですよね。

そこで、ひとりでは日常生活に支障をきたしてしまう人を対象に、財産を保護し、各種契約のサポートで安全に暮らせる環境づくりが制度の目的なのです。

法定後見制度における法定後見人の種類

法定後見人とは、判断能力が低下した人の代わりに、財産管理や各種手続きなどをおこなう人です。

直接の手伝いとなる介護や料理などは、業務に含まれません。

家庭裁判所によって選ばれ、特別な事情がない限り、本人のサポートが必要なくなるまで業務は継続されます。

法定後見人は種類に応じた権限が与えられる

法定後見人は本人の判断能力の程度に応じて3種類にわけられます。

種類によって与えられる権限は、財産管理といえども本人の利益とならない財産の使い方はできません。

下図にて詳しくまとめたので、確認してみてくださいね。

(※1)対象者の自宅の処分に関しては、家庭裁判所の許可が必要
(※2)民法13条1項は下記の通り

  1. 貸金の元本の返済や預貯金の払戻しを受ける
  2. 金銭の借り入れや保証人になる
  3. 不動産を含めた重要な財産を売買する
  4. 民事訴訟で訴訟行為をする
  5. 贈与、和解・仲裁合意をする
  6. 相続の承認や放棄、遺産分割をする
  7. 贈与や遺贈の拒絶や、不利な条件の贈与や遺贈を受ける
  8. 自宅の大修繕をする
  9. 一定の期間を超える賃貸借契約をする

(※3)日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない

後見監督人が必要な場合

下記のようなケースでは、法定後見人を監督するための『後見監督人』が選任される場合があります。

後見監督人とは、後見人が正しい業務をおこなっているか、不正を働いていないかをチェックする役割です。

  • 家族や親族が後見人
  • 家族や親族間でトラブルがある
  • 本人の預金や不動産が多い
  • 財産に不明瞭な箇所がある
  • 後見人か被後見人のどちらかが不利益となる可能性がある
  • 後見人が高齢または若齢にて事務の不安がある
  • 後見人が専門的な知識を得ていない

法定後見制度のメリット・デメリット

法定後見制度は判断能力が低下した人の財産を法的に守れますが、デメリットも把握しておかなければ申立人に負担がかかる可能性があります。

メリット

【その1】本人の法律行為を代理できる

法定後見制度の一番のメリットは、生活に必要な法律行為を法定後見人に代理してもらえることです。

本人が認知症を発症してしまうと、不動産の売買契約や預金の引き出し、施設の入居契約などができなくなります。

しかし法定後見人がいれば、その心配はありません。

契約の代行や同意などの権限を法定後見人に委ねることとなりますが、日用品・食品の購入においては本人の権限はそのままです。

【その2】親族による財産の使い込みを防ぐ

2014年頃まで後見人による財産管理の不正が後を絶たず、特に親族が後見人の場合にトラブルが多く発生していました。

その後、親族の後見人に対して後見監督人をつけるケースを設けたり、法律の専門家を法定後見人として選任したり、対策が功を奏しています。

また、法定後見人は半年から1年の間に財産状況を家庭裁判所に報告する義務があり、その業務も不正の抑止力となっています。

【その3】本人が不当な契約を結んだ際に契約を破棄できる

認知症や脳の病気があると、本人にとって不利益となるセールスを受けても正しい判断できません。

しかし法定後見人(保佐人・補助人は条件あり)は、本人が不必要な高額商品を購入してしまっても解約できるので、財産を守ることに繋がります。

本来はクーリングオフの期間内(2週間)でなければ契約の破棄や返金は難しいのですが、法定後見人はクーリングオフの期間を過ぎていても契約破棄が可能なのです。

デメリット

【その1】法定後見人が希望通りの選定とは限らない

親族はこれまで本人の介護も担ってきたことから、法定後見人も請け負いたいとされることが多々見受けられます。

しかし、希望通りにならないケースが少なくありません。

家庭裁判所によって親族では難しいと判断されると、法定後見人は法律の専門家が選任される場合が多い現状です。

【その2】本人の持ち家を処分するには許可が必要

法定後見人が本人の住居を売却するには、家庭裁判所に対して『居住用不動産処分の許可』を得なくてはなりません。(保佐人や補助人は、不動産処分の代理権が与えられている場合に限ります)

また、法定後見人が本人の財産を処分するには、本人にとって利益となるかが重要です。

そのため、本人の不動産を売却した金銭を親族の生活費や遊興費にあてたり、親族の不動産投資といった資産運用はできないのです。

【その3】相続税対策ができない

相続税対策には『生前贈与』『生命保険契約』『養子縁組』などがあります。

しかし親族が法定被後見人になると本人の財産を勝手に移転できないため、本人とって有益であると判断されない限り相続税対策は難しいといえるでしょう。

相続税対策を考えているならば、本人の意識がはっきりしているときに進めておかなくてはなりません。

法定後見制度を利用するための具体的な手続き

ここでは具体的な申請方法について解説します。

法定後見制度を利用するには、事前に提出する書類や手続きが多々あります。

さらに家庭裁判所の繁忙時期や本人の状況によっては、利用開始まで半年を要するケースも考えられるのです。

そのため申立人が親族の場合、長期に及ぶ準備で疲れてしまうかもしれません。

対策として、可能であれば弁護士や司法書士に手続きを依頼するのもひとつの方法です。

費用はかかりますが、準備にかかるストレスは軽減されるでしょう。

申立てができる人

申立人の条件は、民法第7条『後見開始の審判』で下記のように定められています。

  • 本人(ただし判断能力が回復している場合)
  • 本人の配偶者
  • 4親等内の親族
  • 未成年後見監督人
  • 保佐人
  • 保佐監督人
  • 補助人
  • 補助監督人
  • 検察官

法律上の一定の条件を満たしている場合には、市町村長も申立てが可能です。

必要書類

申立てに必要な書類は、家庭裁判所のウェブサイトでダウンロードする方法や、家庭裁判所からの郵送、窓口で直接受け取る方法があります。

また、裁判所によって必要書類が異なるので、申立てをする家庭裁判所に一度確認しましょう。

ここでは一般的に必要とされる書類を紹介します。

  • 申立書
  • 申立事情説明書
  • 申立人の戸籍謄本
  • 成年後見用診断書
  • 本人の戸籍謄本・戸籍の附票・登記事項証明書・医師の診断書:各1通
  • 成年後見人候補者の戸籍謄本・住民票・身分証明書:各1通
  • 後見登記がされていないことの証明書
  • 登記事項証明書(後見人として決定したときに必要)
  • 家庭裁判所が定める書式(財産目録・収支予定・事情説明書・親族関係図など)

費用

必要書類同様、費用に関しても各家庭裁判所で異なります。

申立ての前に確認しましょう。

申立てで必要な費用

  • 開始の申立て(後見・保佐・補助):各800円
  • 同意権付与の申立て/代理権付与の申立て:各800円
  • 後見登記手数料の収入印紙:2600円
  • 送付にかかる郵便切手(裁判所によって異なる):3000~5000円
  • 医師による鑑定費用(実施しないケースが多い):50,000円~100,000円
  • 本人の戸籍謄本:450円
  • 住民票・戸籍の附票・身分証明書:各300円
  • 医師の診断書:5000~7000円
  • 後見登記がされていないことの証明書:300円
  • 登記事項証明書:1通あたり480円~600円
  • 固定資産評価証明書(不動産がある場合):1通あたり300円

法定後見人に支払う費用

法定後見人へ支払う費用は、後見人による『報酬付与の申立て』で、家庭裁判所が報酬額を決定します。

どの種類の後見人であっても報酬はすべて同じ基準であり、月に2万円~6万円です。

ただし訴訟や調停、日常的な契約代行で特別な困難があった場合は、特別な報酬が必要となります。

制度利用開始までの手続きの流れ

法定後見制度が利用できるまで、少し複雑です。

下図で流れを確認し、スムーズに手続きを進めましょう。

まとめ

法定後見制度は、本人が安全に暮らすためにとても有効な制度です。

しかしメリット・デメリットの影響が強い制度のため、本人や自分の環境をよく考えてから利用しましょう。

成年後見制度に関する後見人の具体的な業務内容は、別記事にて紹介しています。

そちらも参考にしていただき、最適な選択をされることを願っています。

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