認知症になると、金銭の使い方や契約関連などが自力では難しくなります。
身体は元気でも暮らしに支障がでる可能性がありますよね。
そんなときは成年後見制度を活用しましょう。
判断能力が低下した人の代理人が、その人の生活に必要な手続きを代行できるのです。
そこで今回は、成年後見制度の概要や具体的な内容、注意点について紹介します。
制度を正しく理解することで、たとえ親に万が一の事態が起こっても財産を安全に守れますよ。
成年後見制度とは?
判断能力が低下した人の生活を法的に保護・支援する制度
成年後見制度とは、財産管理やさまざまな契約が自力でできなくなった人に対し、代理人がその人に代わって管理・契約といったサポートを法的におこなう制度です。
私たちは日々の暮らしで、預貯金や資産の把握、買い物、サービスの契約・解約などの手続きが常に欠かせません。
ときには複雑な契約の場面もありますよね。
しかし認知症や脳の病気をわずらうと生活における判断が難しくなり、暮らしに関するあらゆる手続きができなくなってしまいます。
また、詐欺や悪徳商法から財産が狙われやすくなる事態も心配です。
ひとり暮らしの親が「十分な判断ができていない」と感じたときは、不当な支払いや契約から守るために成年後見制度の利用を検討しましょう。
本人以外の手続きができないときに効果的
本人の判断能力が低下すると、下記のような問題に直面します。
【財産に関する問題の例】
- 詐欺や悪徳商法の被害が心配
- 親族による財産の使い込みが不安
【契約や手続きに関する問題の例】
- 銀行や証券会社での手続きができない
- 不動産や資産の売却ができない
- 遺産分割協議ができない
- 介護施設や福祉サービスの契約ができない
このようなトラブルも、成年後見制度の活用によって対処できる可能性が高くなります。
親のいざというときのために制度を理解しておくといった、事前の備えが大切ですね。
財産管理や契約を代理でおこなう『後見人』
成年後見制度において、生活をサポートする代理人は『後見人』と呼ばれます。
本人もしくは家庭裁判所が選任し、原則として本人が亡くなるまで解任されません。
後見人が本人の財産や預貯金を代理で使う際は本人が有益となる使い道のみ認められているので、信頼のおける人が後見人だと安心ですね。
人数に制限はないので、複数での業務分担が可能です。
後見人には毎月数万円の報酬が発生しますが、親族の場合は報酬を支払う申立てをしないケースが多くみられます。
成年後見制度は2種類
成年後見制度は『法定後見制度』と『任意後見制度』の2種類にわけられます。
サポート内容にほぼ変わりませんが、申立てのタイミングや後見人の選ばれ方が異なるため、あらかじめ注意が必要です。
判断能力がすでに低下した人を守る法定後見制度
法定後見制度は、家庭裁判所から選ばれた後見人が財産管理や契約関連を代行します。
「本人の判断能力がすでに低下している」と医師から診断された人が対象です。
そのため、本人が契約の意味や内容を自分で判断できる状態ならば、たとえ寝たきりであっても法定後見制度は利用できません。
後見人が支援できる範囲や権限の強さは、本人の判断能力の程度で決まります。
判断能力の低下に備えた任意後見制度
任意後見制度は本人の判断能力が残っているときに、あらかじめ本人によって後見人を選び、依頼したい内容を決めておく制度です。
今は生活に問題がなくても、認知症や病気・事故などで判断能力が急に低下する事態は誰にでも考えられますよね。
しかし誰になにを頼むかを事前に決めておくと、いざというときが訪れても後見人のサポートによって自分が望む生活を継続できるのです。
任意後見制度での後見人は家族や知人のほか、弁護士、司法書士などの専門家に依頼もできるため、自分が信頼のおける人を選べます。
成年後見制度で後見人ができること・できないこと
成年後見制度での後見人の業務は『本人の財産管理』『本人の健康・生活の維持(身上監護)』です。
管理や契約を代行できる反面、直接的な労務は認められていません。
ここでは後見人ができることとできないことを、具体的に紹介します。
できることその1【本人の財産の管理】
【財産の権利や保存、処分に関して】
- 本人の財産や収益の管理・保存
- 財産の処分・売却・変更
- 賃貸借契約・変更・解除
- 担保権の設定契約・変更・解除
【金融機関との取引に関して】
- 本人の預貯金や現金の管理
- 定期預金の解約
- 振込や必要に応じた引き出しなどの銀行手続き
- 有価証券等からの配当の受け取り
- その他の収入・支出の管理
【相続に関して】
- 遺産分割
- 相続の承認や放棄
- 贈与もしくは遺贈拒絶
- 寄与分を求める申立て
- 遺留分減殺の請求
【保険に関して】
- 保険の契約・変更・解除
- 保険金の受け取り
【証書の保管や各種手続きに関して】
- 登記済権利証・実印・銀行印・印鑑登録カードの必要範囲内の使用
- 株券の取引
- 登記の申請
- 供託の申請
- 税金の申告・納付
- 住民票・戸籍謄本・登記事項証明書その他の行政機関の発行する証明書の請求
- 運転免許証・マイナンバーカード・健康保険証・障害者手帳・年金手帳などの管理
できることその2【本人の健康・生活の維持】
【医療に関して】
- 医療契約・変更・費用の支払い
- 入院の契約・変更・解除・費用の支払い
【住居に関して】
- 不動産の管理・処分(ただし処分は家庭裁判所の了承が必要)
- 賃貸の更新手続き・解除
- 住居の新築や増改築、修繕に関する契約・変更・解除
【介護契約に関して】
- 介護契約・変更・解除・費用の支払い
- 要介護認定の申請や民定憲法に関する承認・異議申立て
- 介護契約以外の福祉サービスの利用する際の契約・変更・解除・費用の支払い
- 介護施設への入所に関する契約・変更・解除・費用の支払い
- 福祉関係の措置申請・異議申立て
【生活に必要な購入に関して】
- 生活費の送金
- 生活に必要な機器や物品購入
【定期的な収入・支払いに関して】
- 家賃
- 年金
- 公共料金
- ローン返済
【教育やリハビリに関して】
- 学校やリハビリ施設の情報収集・見学・入学契約
- 施設利用の契約・費用の支払い
- 通学状況・入所状況・施設利用状況の確認
【本人死後の手続きに関して】(必要時のみ)
- 遺体の火葬や埋葬に関する契約
- 債務弁済のための本人名義の預貯金の払戻し
- 本人が入所施設等に残していた財産の処分契約
- 電気・ガス・水道の解約
【その他】
- 定期的に留守宅を確認
- 郵便物の管理
- 庭の樹木の手入れや除草の手配
後見人にできないこと
【直接的なサポート】
後見人は介護や掃除、買い物代行など本人への直接的なサポートはできません。
たとえば介護が必要な場合は、相応の専門家・施設への手配が後見人の仕事です。
【本人の身分を変動させる行為】
婚姻・離婚・子の認知・養子縁組・遺言などの身分にかかわる行為に関して、後見人は手続きを代行できません。
これらは本人の意思が尊重されるべきであり、本人以外の考えを取り入れるべきではないためです。
【生活用品の消費について同意や取り消し】
本人が生活するうえで購入した日用品は、後見人は同意や取り消しができません。
【医療行為への同意】
後見人は、医療行為への同意や承認の権限はありません。
医療行為の判断は本人のみの権利であり、後見人の権限が及ぶ範囲ではないためです。
ただし親族が後見人ならば、親族としての同意は有効となる可能性があります。
【身元保証人・身元引受人・その他の保証人】
本人の財産管理や生活の維持を代行する後見人は、責任を連帯する保証人や身元引受人に就任する義務はありません。
しかし実際には、医療機関や福祉施設などから入院・入所時に身元保証人となってもらうよう求められるケースはあります。
成年後見制度を利用する際の注意点
成年後見制度の申立ての前に、注意すべき点が2つあります。
本人の利益や必要性を最優先に考える
成年後見制度では本人の財産を安全に守ることが目的です。
そのため、親族が考えていた財産運用や目的が、思い通りになるとは限りません。
たとえば『本人の施設入所における費用を準備するために、本人の不動産を売却する』のは妥当です。
しかし子供や配偶者といった親族が、その費用を生活費・遊興費・事業資金などにあてる場合は、本人にとって利益や必要性がないので認められません。
得られる資金が本人のために使われるかがポイントなのです。
本人の判断能力が回復もしくは死亡するまで制度が継続される
成年後見制度は本人の判断能力の回復もしくは本人の死亡といった、保護が不必要となるまで続きます。
親族が後見人として選任されると途中で解任できないため、その業務や家庭裁判所への報告が数年にも及ぶかもしれません。
自分の生活以外に事務作業が長期的に続くと身体的・精神的にかなり負担ですよね。
また、後見人が弁護士や司法書士などの専門家であれば、申し立てた人が毎月報酬を支払います。
成年後見制度を利用する前は、金銭の負担も長期間発生するおそれがあることを考慮しましょう。
まとめ
成年後見制度は、自己管理ができなくなった人の財産を守るためにはとても強い味方です。
しかし親族が後見人を担う場合、体力的・精神的な負担が大きくなります。
また、専門家の選任となると、毎月の報酬支払いも念頭におかなければなりません。
制度の利用がストレスとならないよう、利用する目的や役割をしっかりと把握することが大切です。
別記事で法定後見制度と任意後見制度についてそれぞれ詳しく紹介するので、ぜひそちらもご覧くださいね。