判断能力や意思決定能力がなくなる前の対策として、おおいに有効な任意後見制度。
成年後見制度のひとつの区分ですが、あまり聞き慣れませんよね。
そこで今回は、任意後見制度の仕組みやメリット・デメリット、手続きの流れを紹介します。
制度の内容を理解し、いざという時に備えましょう。
任意後見制度とは
任意後見制度は、成年後見制度のひとつです。
介護保険制度とともに2000年4月からスタートしました。
認知症や病気によって判断力が乏しくなったときのために、生活に必要な手続きを担ってくれる人(任意後見人)を事前に選んでおけるのです。
また、支援内容についても制度を受ける本人が詳細に定められます。
突然倒れていざというとき、本人が希望する生活を続けられるのは心強いですね。
制度を利用するには公正証書が必要
任意後見人の選定や詳細な支援内容を定めたのち、公正証書によって契約を結びます。
公正証書とは、法律により厳格に規定されている高い証明力を誇る公文書です。
任意後見の契約において公正証書を利用しなければ無効となるので注意しましょう。
本人の意思決定能力や判断能力がいよいよ乏しくなり、任意後見監督人(任意後見人を監督する役割)が家庭裁判所から選ばれると、制度の開始となります。
法定後見制度との違い
成年後見制度のもうひとつの区分として、法定後見制度があります。
どちらも本人の財産や権利を保護する目的に変わりありません。
しかし制度の始まり方が異なります。
法定後見制度→判断能力低下のあと、家庭裁判所で法定後見人を選んでもらい、法定後見開始
任意後見制度→判断能力低下の前に任意後見人と公正証書による契約を結ぶ。判断能力低下後に家庭裁判所で任意後見監督人を選んでもらい、任意後見開始
制度の効力が有効となるタイミングは双方とも判断能力低下のあとですが、
本人の状態によって、どちらの制度から始められるかが分かれます。
任意後見制度ではどのような支援が可能か
任意後見制度の利用形態は3つです。
本人の状態や生活環境に合わせて自由に選択できるので、希望する形態を選びましょう。
また、後見人が支援できる範囲とできない範囲があります。
支援内容を設定する際には注意してくださいね。
任意後見制度の利用形態(将来型、移行型、即効型)
将来型
現在は健康であるものの、将来において判断能力や意思決定能力が低下した際に支援を希望する形態です。
任意後見の契約のみを事前に結びますが、自分で判断できる能力が保たれている限り任意後見の効力を発揮しません。
判断能力が乏しくなり、家庭裁判所により任意後見監督人が選ばれると効力が発生します。
移行型
財産管理や各種手続きに関して、判断能力が乏しくなる前から支援を希望する形態です。
任意後見の契約とともに、任意後見の効力発生までの事務を委任する契約(委任契約)も結びます。
最初は委任契約に基づく見守りや事務、財産管理などがおこなわれ、本人の意思決定や判断できる能力に低下がみられたあと、任意後見制度に移行します。
即効型
本人の意思決定能力や判断能力がすでに低下しはじめているものの、契約を結べる能力はあり、すぐに支援が必要な形態です。
任意後見を契約したあと、家庭裁判所において任意後見監督人をただちに選んでもらうための申立てをします。
任意後見制度で任意後見人ができること
- 財産や預貯金の管理
- 不動産の管理・保存・処分
- 各種権利証といった重要証書の管理
- 収入や支出の管理
- 公共料金の支払い
- 相続に関する事務
- 病院や施設への入院・入所手続き
- 要介護認定の申請
任意後見契約は上記の項目から将来希望する支援を本人が選択でき、それぞれ詳細な設定が可能です。
ただし、その内容すべてにおいて公正証書での契約が必要となります。
任意後見制度で任意後見人ができないこと
- 直接的な介護や支援(ペットの世話も含む)
- 本人の身分変動
- 生活用品の消費について同意や取り消し
- 本人の医療行為に対する同意
- 身元保証人や身元引受人
- 本人死後の事務
- 取消権
任意後見のみの契約では、後見人は死後の事務ができません。
そのため、本人がひとり暮らしで親族がいない場合、死後事務について任意後見契約とは別に契約するパターンもあります。
また、後見人に取消権がなく、本人が不当な契約をしてしまっても取り消せません。
任意後見制度のメリット・デメリット
任意後見制度にはメリット・デメリットがあります。
制度利用前に、それぞれ把握しましょう。
メリット
本人の希望する生活を反映できる
任意後見制度では支援してもらいたい内容をあらかじめ決めておけるので、自分の意思が尊重されます。
判断能力や意思決定能力が低下しても、先々に望む生活を実現させる方法として、大いに有効な制度といえるでしょう。
本人が希望する生活を継続できる自由度はメリットといえますね。
自分の将来を託す人を後見人として選べる
自身の財産やプライベートなど、第三者の介入に抵抗がある人もいると思います。
しかし信頼できる人を後見人に選べる任意後見制度は、安心感を求める人にとって効果的です。
任意後見人は誰でもなれますが、親族以外であれば弁護士や司法書士、支援団体など、頼れる専門家にも依頼が可能です。
任意後見監督人によって任意後見人の働きを監視
任意後見制度の利用には、家庭裁判所に申立てて必ず任意後見監督人を選んでもらいます。
いざというとき、本人に判断能力がない状況でも任意後見の契約に基づく支援を実施しているかを、第三者が監視してくれるのは安心ですね。
デメリット
取消権が認められていない
本人が不当な契約を結んだり高額商品を買わされたりしても、任意後見人はその契約を取り消せません。
任意後見制度は、本人の財産すべてを管理できるわけではない点がデメリットです。
一方の法定後見制度では、法定後見人に取消権があります。
死後の財産管理や事務は依頼できない
任意後見制度は本人が亡くなると同時に契約終了となるため、死後事務や財産管理は任意後見人に依頼できません。
そのため本人に親族がおらず独居の場合、任意後見人に葬儀の手配や自宅の片付けなどをおこなってもらえないといった不安が残ります。
任意後見制度でカバーできるのは本人が生存中のみです。
利用開始のタイミングが難しい
任意後見契約は契約を結んでから制度開始時までに時間差があり、本人の様子を定期的に見守ることが必要です。
任意後見人が同居している親族ではない場合、本人の意思や判断能力の程度を見極めるのは困難だという点も、デメリットの1つといえます。
任意後見制度の手続きの流れ・必要書類・費用
ここでは任意後見制度での手続きの流れや必要書類、費用を紹介します。
任意後見制度の手続きの流れ
【その1】任意後見人の候補を決める
判断力が低下した将来、任意後見人として支援してくれる人を選びましょう。
この時点での任意後見人は、任意後見受任者と呼ばれます。
任意後見受任者の資格は必要なく、本人同意のうえで選任の基準を満たしていれば、第三者でも可能です。
ただし、以下に当てはまる場合は任意後見受任者になれません。
【任意後見受任者になれない人】
- 未成年者
- 家庭裁判所に解任された法定代理人・保佐人・補助人
- 破産者
- 行方不明者
- 本人に訴訟をした者、その配偶者と直系の親族
- 後見人の業務に適さない者
【その2】契約内容を決める
任意後見受任者が決定したあとは、支援してもらう内容を決めます。
判断能力が乏しくなり意思決定能力が欠けてしまったしたとき、何をどのように支援してほしいかを、ライフプランに基づいて詳細に挙げてみましょう。
「老後は〇〇市の△△施設に入所したい」
「自宅は処分してほしい」
「病気の際は〇〇病院に入院させてほしい」
「任意後見人の報酬は〇〇円」
など、具体的に決めておくと希望通りの余生を過ごせるはずです。
【任意後見人の報酬】
任意後見人に支払う報酬は、本人と任意後見人の話し合いで決まります。
そのため配偶者や親族の場合は無報酬でも可能ですが、専門家の場合は生業で受注するため月額3~6万円が一般的です。
訴訟や不動産売却など、専門家の任意後見人による特別な手続きがおこなわれた際には別途報酬が必要となります。
【その3】任意後見の契約および公正証書を作成
任意後見受任者および具体的にまとめた契約内容を定めてから、任意後見の契約をおこないます。
本人と任意後見受任者が近くの公証人役場に出向き、公正証書を作成してもらいましょう。
日時や制度利用の目的は、事前に打ち合わせておくことをおすすめします。
【任意後見制度の申立てに必要な書類】
- 印鑑登録証明書
- 運転免許証や顔写真付きの身分証明書
- 戸籍謄本
- 住民票
- 財産目録
ただし印鑑登録証明書・戸籍謄本・住民票は、発行後3か月以内のものに限ります。
必要書類は個々の状況に応じて異なるため、事前に公証人に確認しましょう。
【任意後見契約公正証書の作成費用】
- 公証役場の手数料→1契約につき1万1000円(証書が4枚を超える場合は、1枚超えるごとに250円の加算)
- 法務局に納める印紙代→2,600円
- 法務局への登記嘱託料→1,400円
- 書留郵便料→約540円
- 正本謄本の作成手数料→1枚250円×枚数
任意後見契約とあわせて委任契約も結ぶ場合は、さらに手数料が必要です。
また、委任契約が有償ならば手数料が増額する可能性もあります。
任意後見人が複数だと契約の数が増えるため、人数分の費用が増えると頭に入れておきましょう。
その後、法務局にて約2~3週間で後見登記が完了します。
登記内容が書かれたものは登記事項証明書と呼ばれ、任意後見人が本人の各種手続きをおこなうための証明書となるのです。
【その4】任意後見監督人を選ぶ申立て
本人の意思や判断能力が乏しくなったたタイミングで、任意後見監督人を選ぶための申立てをしましょう。
申し立てができる人は以下のとおりです。
- 支援を希望する本人
- 本人の配偶者
- 本人の4親等内の親族
- 本人の任意後見人
申立て先は、本人の住居地管轄の家庭裁判所となります。
監督人の候補者を指定することはできますが、家庭裁判所はその意見に拘束されません。
希望通りにならない場合もあると想定しておきましょう。
【任意後見監督人を選ぶための費用】
- 申立手数料→収入印紙800円分
- 連絡用郵便切手→申立てる家庭裁判所にて確認(3,000円~5,000円)
- 登記手数料→収入印紙1400円分
専門家が任意後見監督人に選任された場合は月額3~6万円の報酬が発生します。
家庭裁判所の判断によって本人の財産状況から金額が決定され、監督人に支払われる仕組みです。
任意後見監督人が選ばれた後、任意後見人の仕事が開始されます。
まとめ
任意後見制度では、本人にとって最良の状態を考えてくれる人を任意後見人として選ぶことが大切です。
後見人や支援内容を自由に選択できる反面、効力開始のタイミングが難しかったり後見人に取消権がなかったり、デメリットも存在します。
制度の特徴をしっかりと把握し、本人が『最期まで希望する生き方』を実現させましょう。