事例集

【取材】身近にある8050問題・共倒れになりつつあった家族の記録②

中学生で不登校となり、そのまま引きこもりになってしまった息子のTさん。

支え続けた両親も父親は要介護状態となり、母親もダブルケアの毎日に疲弊していきます。

S家が抱えていた8050問題…どのようなきっかけで浮き彫りとなり、解決されていったのかをご紹介しましょう。

【取材】身近にある8050問題・共倒れになりつつあった家族の記録①より続く

8050問題が浮き彫りになったきっかけ

S家が抱えていた深刻な8050問題。

母親のKさん・息子のTさんともに漠然とした不安は抱えていたものの、具体的に対策を考えていたわけではありませんでした。

Kさんは80代を目前としていて、Tさんも50代に…。

共倒れの危機はある日突然やって来たのです。

母親・Kさんの疲弊

母親のKさんは、とにかく疲弊していました。

夫の介護、息子の世話…80代を目前としていた状況であるにもかかわらず、懸命に家族を守ろうとする毎日。

しかし、夫が認知症を発症したことがわかり、Kさんの負担は更に重くなっていきます。

Kさん「あの頃のことはよく覚えていません。とにかく気が付くと1日が終わっている感じでした。訪問介護のヘルパーさんも良くしてくれていたのですが、やっぱり夜は気になって眠れないし、とてもきつかったです。」

自分も年齢を重ねているのに介護を任される生活は、どれだけ大変だったことでしょう。

Kさんは日に日に疲弊していき、身体の不調を感じるようになってしまったのです。

ケアマネジャーの感じた違和感

Kさんの夫は介護認定を受けていたため、ケアマネジャーがついていました。

しかし、最初のケアマネジャーはKさんの状況をあまりよく見ていなかったようで、支援に関するアドバイスはもらえなかったそうです。

ちょうどKさんが体調不良を感じ始めたころ、夫のケアマネジャーが退職したことで担当者が変更になりました。

この新しいケアマネジャー・Aさんによると、初めてS家へ挨拶に行った際、違和感を感じたと言います。

Aさん「利用者さん(ご主人)本人の状況はそれほどひどいものではありませんでしたが、Kさんの様子がおかしかったんです。困ったことはないかと聞いても「ありません」と答えるだけ。どう見ても疲れ切っているのに、自分からSOSを発信できない状態だったんです。」

ー息子のTさんの存在には気付いた?

Aさん「驚いたことに、申し送りには家族構成だけが書かれているだけで、長年引きこもりで苦しんでいることは一切触れられていませんでした。家に誰かいる気配はするのですが、Kさんに聞いても何も言わない。これは深刻な事態だと思いました。」

Aさんはこの事態を何とかしなければいけないと思い、事務所に帰った後に上司へ報告をしたそうです。

ソーシャルワーカーへの橋渡し

ケアマネジャーは介護の分野が専門で、社会福祉に関してはソーシャルワーカーが専門になります。

AさんはまずS家の状況を把握したいと思い、何度もKさんと話をしたそうです。

Aさん「Kさんは、最初何も話してくれませんでした。息子さんの状態を知られたくなかったのかもしれません。ただ根気よく話をしていくうちに、ようやく『もう限界だ』『困っている』とSOSを発信してくれたのです。」

Kさんから発信されたSOSは、すぐさま担当のソーシャルワーカーへ報告されました。

Aさんが橋渡しをしてくれたことで、S家の抱える問題がようやく浮き彫りになったのです。

8050問題を解決に導いたポイントとは?

S家が抱えていた深刻な問題は、ケアマネジャーとソーシャルワーカーが連携したことで、解決に向けて大きく前進します。

S家の8050問題を解決に導いたポイントについて、ケアマネジャーのAさんにお話を伺いました。

「助けてほしい」と声をあげることが大切

Aさん「まず、介護でも生活関連でも、困ったことがあったら助けてほしいと声をあげることが一番大切なんです。今回はご主人が介護認定を受けていたので、私が関わることができましたが、万が一社会的支援を受けることができていなかったら、Sさんのお宅はもっと悲惨な状況になっていたと思います。誰でもいいんです…役所へ「困っているから助けてほしい」と言って欲しい。公的機関であれば、何かしらの支援ができます。特に高齢者の方の場合は、よからぬ目的の詐欺被害に遭ってしまうことも多いので、必ず公的な機関へ相談をして欲しいと思います。」

ー敷居が高いと感じたりどこへ相談して良いのかわからないのでは?

Aさん「それは自治体の宣伝不足もありますよね。広い役所のどこへ行けばいいのか…困ったときは総合案内などで聞くと良いと思います。『こういう件で来たんだけどどこに行けばいいのか』と聞けば、しかるべき担当部署を教えてくれるはずです。」

必要なら生活保護の受給を

Aさん「高齢者の方の中には、生活保護を受給することを恥ずかしいと感じる人が少なくありません。本当に困っているのなら、全然恥ずかしいことではないんです。我慢をして体を壊すようなことがあっては絶対にいけませんから。今回のSさん一家の件も、外から見ているより内情はかなり深刻でした。特に在宅介護をされている場合は、介護に忙殺されてしっかりと現実を見ることができない状態になってしまうこともあります。生活保護は恥ずかしいことじゃない。命を守るための制度なんだということを理解して、困ったときは相談すべきなんです。」

ー生活保護は断られることも多いと聞くが?

Aさん「確かに誰でもOKというわけではなく、状況をしっかりとヒアリングして、できることがあればやってもらうというのが原則です。ただ、今回のSさんのような状況であれば、生活保護だけではなく、その他の社会的支援も受けられます。まず自分の困っている状況を認知してもらうことがポイントなんです。」

❝その道のプロ❞に相談すること

Aさん「家族・友人・親戚など、相談できる人がいる場合でも、介護や社会的支援の場合は‟その道のプロ”に話を聞くべきです。身内や知り合いに専門家がいれば問題はありませんが、一般の方の場合はまた聞きや間違った情報などを教えてしまうこともあるからです。ここでも誰に相談すればいいのかわからないというときは、役所で聞けば教えてくれます。相談する窓口の部署が異なったとしても、1つの家庭をサポートするのが目的なので、情報共有は行われます。『うちはこうだった』という経験談も、状況が変われば結果も変わるので、自己判断する前に相談することがおすすめです。」

S家のその後はどうなったのか

ケアマネジャー・Aさんの尽力により、専門家と連携をとることでS家の問題は解決に導かれました。

認知症を発症していたご主人は、介護を在宅で行うことは厳しいと判断され、施設への入所が決まりました。

驚いたことに、Kさんは金銭的な面でも厳しい状況にあり、夫の退職金は底をつく寸前だったそうです。

ソーシャルワーカーから生活保護を勧められ、現在は申請中とのこと。

Kさんは介護の負担が軽減され、ようやく自分の身体を心配できる状況になったといいます。

息子のTさんは精神科を受診したところ、軽度の精神障害が判明。

いったん入院はしたものの現在は退院し、作業所で働くことができるようになっているそうです。

まとめ

今回S家のお話を取材させていただいた正直な感想は、一生懸命頑張っていても限界はあるということでした。

特にKさんはご自身も高齢であるにもかかわらず、夫の介護と息子の世話を負担して、どれだけ大変だったかと胸が痛くなります。

良いケアマネジャーとの出会いがきっかけとなり、KさんもSOSを発信できたことで、S家の8050問題はようやく明るい兆しが見えてきました。

ケアマネジャーのAさんのお話にもあったように、困ったときは自分から『助けてほしい』『困っている』とSOSを発信する大切さは、どの家庭にも共通することだと思います。

これから日本が迎える超高齢化社会では、肝に銘じておかなければいけないポイントになるのかもしれません。

  • LINEで送る