厚生労働省が令和5年に公表した『介護保険事業状況報告の概要』によると、在宅で介護(予防)サービスを受けた人は約425万人、施設に入所してサービスを受けた人は約97万人と報告されています。
在宅で介護を行うケースの方が圧倒的に多く、これは公的介護保険制度の趣旨が、できるだけ在宅で自立できるよう支援することにあることも関係しているでしょう。
病気・ケガ・加齢などによって在宅介護を初めて行うという場合は、さまざまな準備が必要です。
この記事では、在宅介護を始める前に準備しておきたいことをご紹介します。
在宅介護開始!始める前の準備は?

在宅介護を始める時にはどんな準備が必要になるのでしょうか?
特に初めて在宅介護を行う場合は、下記に挙げる5つのポイントを確認してください。
1・介護保険の申請を行う
在宅介護では、さまざまな介護保険のサービスを受けることが必要になります。
そのため、まずは介護保険の申請を行いましょう。
介護保険を利用するためには、要介護の認定が必要です。
地域包括支援センターや各自治体の介護保険の窓口で申請を行うことが可能で、窓口へ問い合わせると、必要な書類などを教えてくれます。
要介護の認定の結果は、1ヶ月ほどかかることが一般的ですので、介護サービスを受けたいタイミングから逆算して申請を行うと良いでしょう。
2・介護の分担を決める
在宅介護を行う場合、介護保険のサービスを利用したとしても、主となる介護者が必要になります。
要介護者の介護度にもよりますが、どんな介護が必要で、誰がどの介護を担当するのかを決めましょう。
同居の場合はもちろん、別居している場合はケアマネージャーも含めて相談をしてください。
また、家族の誰か一人に負担が大きくならないよう、主な介護者のケアも考える必要があります。
介護はもちろん、日常的に必要な家事や金銭の管理などについても、担当を決めておきましょう。
3・費用を確認する
介護サービスは介護保険を利用することで費用を抑えられますが、要介護度によって利用できるサービスの内容が異なります。
必要なサービスを受けるのに1ヶ月でどのくらいの費用が発生するのかを把握しておくことが大切です。
介護を受ける人が全て負担できるのであれば問題ありませんが、費用の捻出を考えなければいけない場合は、費用の負担についてもしっかりと話し合う必要があります。
介護保険のサービスで不足することがある場合に、保険外サービスを利用することもできますが、保険外サービスの費用は自己負担です。
在宅介護を行う上で、どのくらいの費用が発生するのかを把握してください。
4・自宅環境を整備する
在宅介護を行う上で、自宅の環境を整備しなければいけないこともあります。
- バリアフリー化
- 玄関のスロープ設置
- 手すりの設置
- 要介護者の過ごすスペース
など、介護度に応じた環境整備が必要です。
特に介護用ベッドを利用する場合や、ポータブルトイレを使用する場合などは、スペースの確保をしなければいけません。
介護を受ける方はもちろん、主に介護を担当する方の生活動線の見直しも行っておくと良いでしょう。
5・家族で話し合いを行う
在宅介護は、家族・親族間の協力が不可欠です。
主な介護の分担はもちろん、家事・金銭管理・通院介助など、介護に必要な役割の分担をしっかりと話し合って決めておきましょう。
同居している家族がいる場合でも、すべてを負担してもらうことは不可能です。
どこまで協力できるのか、何ができるのかを皆で話し合い、ワンオペ介護にならないような算段を整えてください。
在宅介護のメリットとデメリット

在宅介護にはメリット・デメリットの双方が存在します。
在宅介護を始める前に、どんなメリットやデメリットがあるのかをしっかり理解しておきましょう。
在宅介護のメリット
在宅介護のメリットは、主に以下の3点が挙げられます。
- 住み慣れた自宅で暮らすことができる
- 介護に関わる費用を抑えることができる
- 介護サービスを自由に選択できる
介護を受ける方にとって、最大のメリットは住み慣れた自宅で暮らせることでしょう。
家族と一緒の方はもちろん、一人暮らしの方でも自宅で過ごせるということは精神の安定にもつながります。
また、介護度や介護者の状況に応じて、デイサービス・ショートステイなど、施設のサービスを受けることも可能です。
自分の希望や状況に合わせて、介護サービスを選択できる自由度の高さは、在宅介護の大きなメリットといえます。
在宅介護のデメリット
在宅介護にはメリットだけではなく、デメリットも存在します。
継続していくために知っておきたいデメリットには、以下のようなことが挙げられます。
- 介護者の負担が大きい(介護うつ・介護離職など)
- 急な体調の変化など不測の事態に対応しにくい
- 老々介護など介護者の負担が大きい場合がある
- 経済的な困窮に陥る可能性がある
在宅介護の中でも認知症の場合は、介護者の負担が大きくなる傾向があります。
介護者が介護離職しなければいけなくなり、経済的に困窮するケースなどもあるため、個々の状況に応じてリスクをしっかりと考えておくことがポイントです。
在宅介護を継続するための4つのポイント

在宅介護には期限が定められていません。
24時間365日の介護状態が続くことを前提とすると、継続していくためにはどんなことに注意すれば良いのでしょうか?
在宅介護を継続させるためのポイントを4つご紹介します。
相談者・相談先を確保しておくこと
在宅介護を継続していく上でもっとも重要なポイントは、介護者が相談できる人や機関を確保しておくことです。
- 介護のことについて相談したい
- ストレス解消に愚痴を聞いてほしい
- 疑問や不安を解決したい
など、初めての在宅介護には不安・不満・疲労・疑問などが多くあります。
ケアマネージャー・家族・医師・看護師・地域包括支援センター・地域のコミュニティなど、相談できる場所を複数持っておくことがポイントです。
誰にも相談できない・どこに相談して良いのかわからないという状態では、いつまでもモヤモヤを解消することができず、抱えてしまうことになります。
相談者を多く作り、いつでも相談できる状況を作り上げることが大切です。
ワンオペにならないこと
要介護者と同居している場合などは、どうしてもワンオペ介護になってしまうことがあります。
在宅介護を無理なく継続していくのであれば、ワンオペ介護にならないことがとても重要です。
厚生労働省の『2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況』では、主な介護者で同居している人の割合は45.9%、別居の家族等は11.8%と報告されています。
この結果を見ても、どうしても同居をしている人に負担がかかりがちなのが在宅介護です。
特にメインで介護を担当している人が高齢の場合や、他に協力できる人が少ない場合などは、負担が一極化しないように周囲が協力するようにしましょう。
保険外サービスの併用も検討すること
在宅介護で介護保険のサービスの不足する部分については、保険外サービスの併用も検討しましょう。
保険外サービスとは、介護認定を受けていない高齢者の方や、介護保険サービスの不足している部分を補うことができるサービスのこと。
- 家事支援・代行
- 認知症患者の見守り
- 送迎・移送
- 理美容
- 配食サービス
など、費用は自己負担ですが、介護保険で補えない部分を市区町村などの自治体や社会福祉協議会、民間企業やNPO団体などがサービスを提供しています。
介護保険のサービスには細かい規定があり、介護度によって受けられるサービスの回数や内容も決められているため、保険外サービスを利用することで負担が軽減する可能性もあります。
主な介護者のケアを忘れないこと
在宅介護で主に介護を担当している介護者のケアは、非常に重要なポイントです。
介護度や要介護者の状況にもよりますが、主に介護を担当している人のストレスやプレッシャーは、周囲に理解してもらうことが難しいほど大きいといえます。
介護者が自分自身でストレス発散や疲労回復に努められれば良いのですが、なかなかうまくいくものではありません。
できることは協力する・介護者がゆっくり休めるタイミングを作る・いつでも相談にのれる体制を作るなど、家族・親族として介護者のケアを忘れないようにしましょう。
まとめ

在宅介護を始める時には、いくつかの手続きが必要です。
在宅介護にはメリット・デメリット双方があり、周囲の協力が欠かせません。
在宅介護を無理なく継続していくためには、主な介護者のケアがもっとも重要になりますので、準備をして終わり…ではなく、常にストレスとプレッシャーを感じているということを忘れないようにしましょう。
そして、在宅介護を行う際には、信頼できるケアマネージャーとよく相談し、要介護者はもちろん介護者にとってもべストのサービスを選択していくことがポイントになります。

