事例集

【取材】ダブルケアの実態・孤独と疲労に苛まれた日々からの脱出③

厳しく育てられた一人娘のRさんは、育児と両親の介護というダブルケアを担っていました。

相談するという当たり前のこともできなくなるほど疲弊し、孤独に苛まれた日々からどのように脱出できたのか、Rさんの事例をご紹介します。

【取材】ダブルケアの実態・孤独と疲労に苛まれた日々からの脱出①はこちら

【取材】ダブルケアの実態・孤独と疲労に苛まれた日々からの脱出②はこちら

Rさんがダブルケアの負担を軽減できたきっかけ

Rさんは発達障害の息子さんの育児と、認知症を発症したご両親の介護を一手に引き受けていました。

認知症は何となく恥ずかしくて人には言えないこと…という誤った思い込みをしていたRさんは、息子さんが定期的に通院していた病院の看護師さんに声をかけられ、自分の過ちに気付くことになります。

「私がひどく疲れた顔をしていると心配して声をかけてくれたんです。息子のことよりも両親のことの方がストレスを感じていたし、介護の方が何倍も大変だったから、最初は「大丈夫」って言っていたんですが、途中で気が付いたんです。これでは両親と一緒だなって。周囲から見たら大丈夫な状態ではないから声をかけているのに、本人は大丈夫としか言わない。でもきっと私は大丈夫じゃないんだろうなって思って、現状を話しました。」

-その看護師さんがきっかけ?

「そうです。話をしたらよほど緊急性が高かったのか、病院は中規模の総合病院だったので、まずは病院に所属するケアマネージャーさんに話をする機会を作ってくれました。育児だけではなく介護も、ましてや介護認定も受けておらず診察も拒否している両親の性格を考えると、医師や看護師など専門的な知識を持った人間に頼らざるを得なかったんです。ケアマネージャーさんには話を聞いている限りでは、間違いなく認知症だろうと言われ、とりあえず介護認定を受けて介護保険が適用できるようにすることが急務だと言われました。」

-専門家へ相談できたことは大きかった?

「やはり自分の知識のなさや情報収集を怠っていたことがすべての元凶だったんだと思いました。私が困っていることを瞬時に理解してくれて、その解決方法をいくつか提示してくれる…目から鱗というか、真っ暗だった道にいきなり光が差したような感覚でした。」

-ご両親は納得してくれたのか?

「昔の人って、病院の先生とか白衣を着ている人に弱くないですか?私がいくら時間をかけて話をしても全く理解してくれなかったのに、訪問してくれた医師の先生の言うことはちゃんと聞いていたんです。父は最後まで懐疑的でしたが、ケアマネージャーさんがうまく話しをしてくれて。恵まれていたのは両親に経済的な余裕があったこと。二人とも認知症に対応してくれる有料の老人ホームへ入ることがトントン拍子に決まったんです。それだけ事態は深刻だったんだと後から聞きました。共倒れになる可能性もあったと聞いて、自分でもちょっと怖くなったのを覚えています。」

-息子さんの症状の悪化は大丈夫だったのか?

「不思議なもので、両親の介護の問題が解決したことで私が安定したら、息子の症状はだいぶ落ち着きました。私が不安な気持ちを抱えていたことが、息子も不安にさせてしまっていたんだと思います。主人もいろいろな手続きなどは手伝ってくれて。ケアマネージャーさんに「あなたが支えなくてどうするの!」って怒られたらしく、今では実家の片付けを一緒に手伝ってくれています。」

Rさんがダブルケアを担っている人に伝えたいこと

Rさんは息子さんの病院の看護師さんのおかげで、暗く長いトンネルを抜け出すきっかけができました。

自分の知識のなさと誤った認識から、深刻な事態に陥ってしまったRさんは、育児や介護で悩んでいる人に伝えたいことがあると言います。

自治体にはダブルケアの相談窓口がある

「当たり前のことかもしれませんが、役所へ行くとさまざまな目的に合わせた相談窓口がありますよね。育児・介護・教育・医療…それぞれの専門家が相談内容に合った解決策を導き出してくれます。私は勝手にダブルケアの窓口なんてないだろうと思っていましたが、まったくそんなことはありません。専門外の相談をしたとしても、しかるべき担当者へつないでくれますし、いろいろな専門家の方が連携して問題解決に尽力してくれます。自分一人で何とかしなくちゃって思っていたことは、かっこいいことでもなんでもなくて、単なる独りよがりだったんです。どうしてよいかわからない、自分の手に余ることが起きたら、まずは相談窓口で自分の状況を知ってもらうことが大切だと思います。どんな状況だろうと、きちんと話を聞いてくれるし、その人の考え方や希望に合った選択肢を探してくれる。困ったときはまず声を上げることが肝心だと思います。」

介護の支援を受けることは悪いことじゃない

「私は勝手に、親を施設に入れるのは悪いことだと思い込んでいました。自宅にいたいという希望を無視してまで施設に入れるのは親不孝だと。でも今回の両親の様子を見ていて、施設に入所してからの方が安心して暮らせているんです。老老介護・認認介護のような状態なのであれば、施設への入所や公的な介護サービスは絶対に受けるべきです。うちの両親の場合は介護認定すら受け入れていませんでしたが、事態は深刻だったので、今回の入所は本当に良かったと思っています。介護認定を受けることで得られるメリットの方が大きいわけですから、別に悪いことでも何でもないんですよね。」

保険外サービスは誰でも利用ができる

「今回の相談の中で紹介されたのが、保険外サービスの利用でした。保険外サービスは費用はかかるけど、介護認定を受けていなくても利用できるし、我が家のような状況でも足りない・できない部分を補ってくれるんです。実家の片付けのときに清掃をお願いしたんですが、驚くほどきれいにしてくださって、私の状況を聞いて「いつでもご利用ください」って言ってくれました。介護だけではなく育児で疲れてしまったときなども利用できるのであれば、とても便利なサービスですよね。スタッフの方の中には自分の育児経験や介護経験を活かしてお仕事されている方もいるので、とても心強いです。何でも自分で抱え込まないで、できないことは助けてもらうっていう気持ちを持つことが大切なんだと思っています。」

まとめ

Rさんのように、自分の家(家族)のことは自分が何とかしなくてはいけないと考える人は少なくありません。

しかし介護だけではなく、育児・仕事・家事などが重なれば、当然リソースは不足します。

各自治体にはさまざまな相談に乗ってくれる窓口が必ずあります。

Rさんのお話にもあったように、仮に専門外の話であっても、しかるべき担当者への架け橋になってくれるので、とにかくSOSを発信することが大切です。

Rさんは現在介護施設でパートとして働いているそうです。

感染症拡大の影響でご両親との面会は制限されているものの、月に1度オンラインで様子を伝えてくれるのを楽しみにしていると話してくれました。

あれだけ追い込まれていた日々が、ちょっとしたアクションを起こすことでこれほど変わるとは思わなかった、実際に経験したことをこれから活かしていきたい…とRさんは話してくれました。

ダブルケアは高齢化社会の日本において、誰にでも起こり得る問題です。

介護や育児に関する情報収集を行い、何かあったときにどこへ相談すれば良いのかを知っておくだけでも、深刻な事態を避けることができるのだと思います。

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